ep.6 張り切るエッダちゃん。
幼い頃、クルザスでおばあちゃんがニワトリを飼っていた。
かわいい雌鳥で、毎朝ではないけど時々卵を産んでた朝は、ママがミルクをたっぷり混ぜたゆるくてふわふわのオムレットを作ってくれたっけ。
ママの白いオムレット また食べたいなー...
どしてこんな事考えてるかというと、チョコボの首である。
ニワトリは一歩歩く度に首をぐっと前に突き出すのに、どしてチョコボは首を動かさないの?
何が違うの?
ふしぎ...
東ザナラーン入ってしばらく行くとすぐにキキルン達のキーキー騒ぐ声が聞こえてきたので木陰に隠れました。
そして、集まって西に進軍するキキルン達を後ろからこっそりつけて行くエッダちゃんでした。
ウェルウイック新林を抜けるとすぐにハイブリッジの高い塔が見えました。
キキルン達、あの橋を襲う気だわ...なんとかしないと...
やがてキキルン達のリーダーが号令を出し、ハイブリッジへと突入しました。ハイブリッジを防衛する銅刄団も出てきて戦闘が始まりました!
今なら...キキルン達の後ろから効果的に攻撃出来るかも...
やってみる?アンナ...
アンナを見ると、すでにやる気満々で全身の羽根を逆立たせて両の翼をばたつかせていました。
やる気なのね!よーっし!!
エッダちゃんはアンナの鞍の上で膝立ちになり、両膝で鞍を力いっぱい締めました。
ルクロおじさん直伝のイシュガルド流騎乗戦闘術の基礎中の基礎でした。
こうやって両膝をしっかり固定する事で、たとえチョコボが暴れても両手で戦闘を続ける事が出来るのでした。
腹筋と両膝を全力で絞ったまま、先日マーケットで買ったばかりの真新しいスプルースの両手杖を構えてアンナに号令をかけます。
アンナ!ゴー!!!
クケーーーーーーーーッ!!!
鬨の声を上げてアンナはキキルン達に向かって猛ダッシュを開始!
アンナが一歩踏み込むごとにグングンと加速します!
ひぃっ!
エッダちゃんは後ろに吹き飛ばされそうになるのを腹筋と両膝だけ必死にささえながら両手で杖を捧げ持ち、アンナにアイ・フォー・アイをかけます!
アンナ!発射!!
両の翼を広げ、アンナがジャンプしてキキルン達に後ろから飛びかかります!
エッダちゃんは後ろに飛び降りながら自分にクルセードスタンスをかけ、今度は自分の足で走ってキキルン達との距離をつめ、射程処理に入った順にエアロをかけます!
1発!2発!3発!4発!5発!
銅刄団の前衛もキキルン達も、突然現れて突撃して来たエッダちゃんに呆気に取られていましたが、銅刄団の隊長らしき白髪のハイランダーの号令で銅刄団がチャージをかけます!
フンベルクト「それっ今だ!!」
キキルン達はエッダちゃんの奇襲で完全に浮き足立っていました。
やった!!上手くいった!!
アンナ! 建物の中に入ろう!
ルクロおじさんがチョコボを呼ぶ時にやっていたように、エッダちゃんも親指と人差し指を輪にして思い切り吹きます。
ぷふーーーっ!
あれ?
ぷふーーーっ!!ぷふーーーっ!!
鳴らないじゃん!!!どしてよ!!
アンナを見ると、キキルン達の頭を足でどついてまわるのに完全に夢中のようでした。
なんとかハイっていうんだっけ?
口笛でアンナを呼び戻すのを諦め、自分もストーンでキキルン達に追い討ちをかけるエッダちゃんでした。
キキルン達が逃げた後、防衛隊の隊長がエッダちゃんに声をかけました。
フンベルクト「やあ見事な奇襲だったグリダニアの白い天使よ!だが奴らの襲撃はこれで終わりではないぞっ!このまま敵の拠点を叩く!オレの美しい背中に続け!!」
おーーーっ!
と声を上げ、首領のアマルジャ族を倒し、一人旅の初戦を景気良く勝利で飾りました!
フンベルクト「君はウルダハに行きたいのか白い天使よ。ではこのままアラグ陽道を西に行き、キャンプ・ドライボーンで休憩していくといい。気をつけて行きたまえ!」
ありがとうございます!
新たな経験と報酬を得て、幸先いいスタートを切ったエッダちゃんなのでした。
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ep.5 思いつくエッダちゃん。
クルザスの寒村で生まれ育ったエッダちゃんにとって、グリダニアとイシュガルドは憧れの大都会だった訳ですが、グリダニアに来てエッダちゃんが一番衝撃を受けた施設は「どんぐり遊園」でした。
地元の子供達を遊ばせる為だけにこれだけの施設を作るというのはエッダちゃんにとって完全に予想外だったので、どんぐり遊園のベンチに座っているだけでもエッダちゃんにとってはドキドキアーバンライフなのでした。
お休みの日にはどんぐり遊園でグリダニアの子供たちと遊びます。
ニコリオー「えっ!ねえちゃんて、家族も友達もお金も無くて、白魔道士なのにろくにヒールもできないの?
おい...大丈夫かねえちゃん?」
うん!今は牧場の手伝いをしてるから大丈夫!チョコボにも乗せてもらえるようになったし、もっと頑張らないとね!!
ニコリオー「無理すんなよねえちゃん。困ってる時は周りの大人に頼ればいいし、わかんない事は知ってる人にきけばいいんだ。」
私だってもう立派な大人だよ!だから私が他の人を助けられるくらいにもっともっと頑張らないと!!
ニコリオー「へっへー!ねえちゃんもまだまだガキだな! そんな強がり言って無理してるやつはまだまだガキだってうちの父ちゃん言ってたぜ!ま、しかたねーから、ねえちゃんになんか困った事があったらこのニコリオーが助けてやるよ!」
ほんとお?じゃあニコリオーくんのお嫁さんになろうかなぁ?
ニコリオー「ば、ばーか!! それは甘えすぎなんだよねえちゃん!!まずは、と、友達からじゃん!!」
えへへー!そうだね!ありがとうニコリオーくん! お姉ちゃんすごい勉強になったよ!!
ニコリオー「いいって事よ!」
子供たちと触れ合ってリフレッシュしたエッダちゃん。
いい事を思いついたので、さっそくラヤ・オ・センナに話に行きました。
ラヤ・オ師匠!私、ちょっと新たな旅に出ようと思います。私の知らない色んな人に出会って、私の知らない色んな事を教えてもらう旅です。チョコボのアンナとの絆を深める目的もあります!
ラヤ・オ「そう。いいかもしれないわね。じゃあチョコボでエオルゼア三国を回って、初心者の館で基礎を勉強してくればいいわ。くれぐれもエーテライトは禁止よ。高いしね。」
え、それってどうやって行くんでしたっけ?
ラヤ・オ「ここを南に行けばすぐザナラーンよ。ウルダハにはここにはない色んな物があるし、ザナラーンからは船でリムサ・ロミンサに行く航路もあるそうよ。」
ウルダハか...
あ!私のコンパクトも修理出来るかも!
ラヤ・オ「出来るといいわね。でも急にどうしたの?」
えへへー...グリダニアの子供たちと話してたら、私もまだまだ子供だって言われちゃって。でも確かにそうだなって...今は自分の知らない色んな事を教えてもらって勉強するべきだと思ったんです。
ラヤ・オ「そうね。人生は一生勉強よ。でもその為にはまず自分の現状を正確に把握する事が大事だと思うわ。強がって背伸びしても、卑屈になってもダメ。まずは再出発の第一歩を踏み出せたようね。」
えへへ!そうだといいなぁ!じゃあ牧場にも話してきますね!
宿に戻り、真新しいバックパックとチョコボかばんにつめた旅の荷物を再チェックするエッダちゃん。
全財産がほとんどないというのはこういう時身軽でいいとエッダちゃんは思いました。
日が暮れる前にウルダハに到着したいので、まだ暗い内にこっそりとグリダニアを出発します。
ベントブランチ牧場でギサールの野菜を買い足して、ラヤ・オ・センナのいるロウアーパスに来ました。
師匠、それじゃあ行ってきます!
ラヤ・オ「うん。気をつけて行ってくるのよ。あと、出来たら幻術以外の色んな事もいっぱい経験して学んで来るといいわ。私の分もね。いってらっしゃい。」
はい!ありがとうございます師匠!
エッダちゃんは、見送るラヤ・オの表情の微妙な変化をなんとなく感じたのでした。
大人の人はみんな偉くて賢くて何でも出来て当たり前だと、悩んだり泣いたり怒ったりするのは子供だけなのだとずっと思ってましたが、そうではないのかもしれない...
師匠!お土産を持って帰りますね!
ラヤ・オ「旅の無事を祈ってるわエッダ!」
ラヤ・オに初めて名前を呼んでもらえたのが嬉しくて仕方ないエッダちゃんでした。
眩しい朝日を遮るようにハットを目深にかぶり、ロウアーパスを後にして東ザナラーンへと向かうのでした。
行こう!アンナ!!
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ep.4 生き抜くエッダちゃん。
記憶がない。お金もない。仲間もいない。
そして大切なパートナーを殺してしまう程の未熟さ。
それは本当にとても申し訳ないとは思うけれど、正直言ってわからないというのが本音でした。
何とかひとりで生活しながら、少しづつ色んなことを学んでいかなければいけないとエッダちゃんは思うのでした。
カーラインカフェの階下はグリダニア・ランディングのコンコースになっていましたが、そこは一階のカフェよりも人が少ないので、最近のエッダちゃんのお気に入りの場所でした。
旅に出る人、旅から帰ってきた人を眺め、ザナラーンティーとウォールナット入りのビスケットを食べながら、自分のこれからの事を考えます。
目標はもちろん冒険者として立派な功績を立てる事ですが、その前にラヤ・オ師匠の言う通り基本から学び直す必要がありますし、それ以前に衣食住をなんとかしないといけないので、当分ベントブランチ牧場に通う事にしたのでした。
今日も牧場に働きに行くと、エーテライトのそばで他の冒険者達が冒険者用居住区について話しているのが聞こえました。
ラベンダーベッド...おぼえとこ...それも目標のひとつね。
ルクロの手伝いをしにチョコボ厩舎に行くと、見慣れないスノウホワイトの小柄なチョコボがいるのを見つけました。
わぁ綺麗な子! この子はどーしたんですか?
ルクロ「この子は双蛇党のチョコボ厩舎から返却されてきたのさ。戦闘用のチョコボは体の大きなオスの方が好まれるんだが、この子はメスだし、特に体も小さいからね。繁殖用としても使えるかどうか...」
え...チョコボって戦闘も出来るんですか?
ルクロ「出来るとも!前線まで兵士を乗せて高速で移動して、到着したら盾役にも回復役にもなるぞ! この子だって時間をかけて教えてあげればきっと色々スキルを覚えて役に立つはずなんだがね...」
え、回復も...!!
エッダちゃんは小柄な白いチョコボをじっと見つめて何か思いついた様でした。
クエッ!
チョコボもエッダちゃんに答えた様に見えました。
ルクロおじさん...それ、私にやらせてもらえませんか? 私一応冒険者で白魔道士なんです。この子が立派に育っていつか大きな功績を残せば、繁殖用チョコボとしても大きな価値が出ると思うんです!!! お願いします。私がこの子を育てて...いえ!この子と一緒に私もきっと大きく成長してみせますから!
ルクロ「はっはー!考えたな!いいぜ。体の小さなメスチョコボはそのままでは買い手がつかないからな。お前が自分でチョコボ厩舎を持つまではここで育てればいい。ただし、絶対死なせずに、いつかこの牧場に戻す事が条件だぜ!じゃあ頑張ってお金稼いで、さっさとラベンダーベッドにアパルトメントでも持つんだな!新米冒険者!!」
ルクロはそう言ってエッダちゃんの背中をポンと叩いたのでした。
やったぁ!!
今日からお前の名前はアヴィール...いいえ女の子だからアンナよ!私たちはひとりぼっちじゃ何も出来ないけど一緒ならきっともっと頑張れるわ!ね!アンナ!!
クエーッ!!
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ep.3 怒られるエッダちゃん。
川のせせらぎと鳥の声が聞こえてきて目を覚ましました。
久しぶりにベッドで寝たら、起きる時に体がベッドに張り付いてるような感覚がしてちょっと驚いたのでした。
ぐっすり寝たらだんだん現在の自分の状況がわかってきました。
ひとりぼっちです。そしてなぜかバックパックがまるごとありません。どこで無くしたのか全く記憶がありません。幸いにもいつも斜めがけしていたポシェットだけは無事でした。
中身は十歳の誕生日に両親から贈られたイシュガルド製のコンパクトとママからもらった豚毛のヘアブラシと自分で買ったハンカチでした。
はっ!コンパクトは?!
コンパクトを開けると鏡は見事に粉々になっており、ポシェットの中に鏡の破片が散らばりました。
あーーーーもーーーーー・・・
鏡が割れただけなら、きっと彫金師さんに直してもらえるよね...
鏡が割れたのはこれが最初ではありませんでした。
ポシェットを逆さにして割れた鏡の破片を綺麗に捨ててコンパクト本体をポシェットにしまい、とりあえずヘアブラシでブラッシングすることにしました。
五年前、第七霊災のちょっと前に「女の子は髪を大切になさい。」と、ママからもらったヘアブラシでした。それから髪を伸ばし始めたのでした。
おはようママ。今日もなんとか生きてますよぉ。
昨日テーブルの上に置いてあったお菓子はウォールナッツ入りのビスケットが三枚でした。
一枚は昨日食べたので残りは二枚です。朝食に一枚食べて、最後の一枚はハンカチに包んでポシェットにしまいました。
今はこれが全財産なのでした。
冒険者としてはかなり危険な状況だとは思いましたが、無くしたバックパックは中身すら記憶していないので諦めがつきます。
身だしなみを整えてミューヌにお礼を言いに行きます。
ミューヌ「お礼なんていいから、ベントブランチ牧場に届け物を頼むよ。そして人手が足りないって言ってたからついでにケーシャを手伝ってあげてくれないかな?」
エッダちゃんが一文無しだとひと目で見抜いていたミューヌの心遣いでした。
牧場の手伝いをしてお駄賃をもらえれば、また少し生きながらえる事ができます。
午前中いっぱい 畑の手伝いをして、午後からラヤ・オ・センナに会いに南部森林へ行きます。
バスカロンドラザーズでひと休みして、ロウアーパスに着いた時にはもう日が暮れかけていました。
根渡り沼にかかる吊り橋のロープをしっかり握りながら北口から登っていくと、左側にすぐラヤ・オ・センナの姿が見えました。
岩を飛び移り、声をかけます。
ラヤ・オ師匠。ご無沙汰してます。
ラヤ・オ「あなた久しぶりね。死んだかと思ったわ」
ええ?もしかして私を覚えてらっしゃるんですか?
ラヤ・オ「まさか!冒険者の顔や名前なんていちいち覚えてないわ。でもエーテルを見れば私にはあなたの状況やステータスがわかるのよ。」
あそっか...私...事故...で、パーティーメンバーや記憶やいろいろ全部無くしちゃって...ひとりぼっちになっちゃって、これからどうしたらいいかと思って...
ラヤ・オ「ふーん...事故ねぇ...でもあなたスキルはリジェネすら覚えてないくせにレベルは上がりきってるじゃない。それは一体どうしたのよ?」
それは...いつも一緒にいた...えと...ア、ア...アヴィールが! そうアヴィールがとても強かったので!!
(そうだ!私はアヴィールと一緒にいたんだ!)
ラヤ・オ「で、その人は?」
あ...多分もう...
ラヤ・オ「ふーん。その人は勇敢に戦って死んだのね?それであなたはひとりぼっちになったと。で、その人が命をかけて戦ってる時にあなたは何をしてたのかしら?」
え、えーと...んーと...勝利を祈って応援してた...かな?
ラヤ・オ「ふーんなるほど。いつもそうだったのね?それであなたは何もしないでもレベルは上がったと。はぁ...勇敢に戦って死んだあなたのパートナーの魂が無事ハイデリンに行きますように...」
あ...はい...本当に...
ラヤ・オ「あなた...バカなの? あなたがパートナーを殺したのよ。」
ええ!そんな!彼は私の一番大切な人でした!!私が殺しただなんて!!
ラヤ・オ「悪いけど、今のあなたに私ができる事は何もないわ!あなたはもう十分レベルが高いんだから幻術とパーティー戦闘の基礎を一から学び直してらっしゃい!!」
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ep.2 洗濯するエッダちゃん。
らんららんるーん♪
鼻歌を歌いながらひとりで歩く。
らんららんるーん♪
鼻歌はつらくて苦しい時に出るもんだって誰かが言ってた。楽しい時は集中してるから、逆に鼻歌なんか出ないんだって。
らんららんるーん♪
そーいえばそーかも。
らんららんるーん♪
こうやって私が鼻歌を歌ってる時、いつもそばに誰かがいたような気がするけど、もう思い出せない。
らんららんるーん♪
思い出せないから、別に涙とか出ないんだけど。
らんららんるーん♪
全身ありとあらゆる汚れにまみれた体で、グリダニアのカーラインカフェに向かうエッダちゃん。
子供の頃に外でおしっこを漏らして、泣きながら帰った事を思い出しました。
らんららんるーん♪
あの時、わたしの手を引いて一緒に帰ってくれたお兄ちゃんは誰だっけ?
らんららんるーん♪
あーこんな汚い私を見てミューヌさんに何か心配されたりしたら逆にやだなぁ...
あのー...
カフェに到着したエッダちゃんを見て、ミューヌは顔色ひとつ変えず、黙って親指をくいっと外へ向けました。
そっちへ行ってみると、エッダちゃんはミューヌに追い出されたのではないという事がわかりました。
カーラインカフェに併設された旅館とまり木の大きなお風呂には、入り口が2つありました。
ひとつは旅館の中からの入り口。それとは別にもうひとつ、ダンジョンから帰った冒険者が汚れた装備や服を洗う事のできる洗い場が併設された外からの入り口があるのでした。そこで泥や血やゲロや、その他訳の分からないヌルヌルとかを洗い流してからお風呂場に入るのです。そしてその洗い場は女性専用となっており、男性は外の川でバシャバシャと洗ってくる事になっていました。
洗い場に入ると、そこはまだ戦場の続きのようでした。悲鳴と呪いの言葉を交互に叫ぶララフェル。泣きながらパンツを洗うエレゼン。洗い終わった鎧に油を塗るルガディン。洗濯だけしに来た女性冒険者もいましたが、そこには泥と血の匂いが充満していました。
なるべく他の人は見ないようにしながら、エッダちゃんも隅っこのシャワーを借りて、汚れた服や髪を水でバシャバシャ洗っていると、鎧の手入れを終えたルガディンがちびた石鹸を放り投げてよこしてくれました。
あたしは終わったらからやるよ。知ってるか?今ヴァレンティオンとかいうカップルイベントをやってるらしいぜ。ったくムカつくよなあ!
ぺこりと小さくお辞儀をして、ありがたくその石鹸を使わせてもらう事にしました。
石鹸で髪や体を洗えるなんていつぶりだろ...
川の水を汲み上げて流すだけの冷たいシャワーでしたが、それでも生き返るような気がしました。
らんららんるーん♪
シャワーの川上から何だか変な色の汁が流れてきたけど、どこから流れてきたかなど見ずに、黙って自分のシャワーで流す事にしました。
らんららんるーん♪
泣きながらパンツを洗うエレゼンの横で自分もパンツを洗います。
らんららんるーん♪
明日は白魔道士の師匠の所に行ってみよう。
レベル30の時以来行ってないけど平気かな?
洗濯が全部終わった後、ちゃんとお風呂で体も隅々まで洗って温まり、濡れ髪のまま、洗ったばかりのピルグリムローブだけ着てなんとかチェックインを済ませて指定された部屋に入ると、テーブルの上にタオルとお菓子が置いてありました。
タオルからはミューヌと同じ香木の良い香りがしました。
ひっ、ひっく...うわあああああああん! うわああああああああぁん...
人の優しさに触れたのは本当に久しぶりだったのでタオルに顔を埋めて思い切り泣きました。
はぁ
すっきりした...
ミューヌの気配りに心の底から感謝をしつつ、洗濯物を部屋干しして、久しぶりにベッドで寝るエッダちゃんなのでした。
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ep.1 生還するエッダちゃん。
ダンジョンに響き渡る勝利のファンファーレ。
惨劇霊殿タムタラの墓所ーCOMPLETEー
そこからエッダちゃんの本当の冒険が始まるのでした。
冒険者はみな宝を拾って街へと帰り、パイヨ・レイヨは命からがら逃げ、リアヴィヌの魂はハイデリンへと去り、アヴィールの呪われた頭部は塵となり、エッダは地の底に落下しました。
ところで。
私は彼に名前を呼ばれるのが好きだ。何をやってもドジで間抜けでどんくさい私を、彼はいつも、怒鳴りつけつつも、手を引いて一緒に歩んでくれるから。
そんな人はこの世にきっと彼だけだ。
大声で私を怒鳴ったり罵ったりするけど、彼はいつでも私を見ていてくれるし、何があっても私を見捨てていなくなる事など絶対ない。
だから彼が私の名前を呼ぶ時、怒鳴られながらも、私は心の中でこっそり微笑むのだ。
エッダ!
はーい。ふふっまたよんでる。
エッダ!!
はいはーい。エッダちゃんはここですよぉ...
エッダ!!!
はいはーい。しつこいぞぉ。
あのねアヴィール。いつか私が死ぬ時もこうやって私の名前を呼んでね。もしも私の耳が聞こえなくなってたら私をぎゅっと抱きしめて叫んでね。そしたらきっとあなたの声の振動が私に伝わるから。
エッダ!!!!
そうそうそんな感じ。ありがとうアヴィール...
おきろ!!エッダーーーー!!!!!!
振動が伝わったのか、別の何かが伝わったのか、今までぴたりと動きを止めていた心臓が、石ころの様にギューッと収縮したかと思うと、爆発的に膨らみ、再び力強く動きはじめました。
ごおおおおおっという音をたてて全身の動脈に再び血液が流れる。
今まで生きてきた十六年間の人生の中で経験した事のない全身の痛みで意識が戻る。
叫び声をあげたいが声が出ない。呼吸もできない。悶絶しながら全身の力を振り絞って身をよじり、ケダモノのような叫び声と共に喉に詰まった血の塊を吐き出す。
おえええ...
ひゅーという音と共に久しぶりに喉に空気が通り、エッダの肺を膨らませた。
うあぁぁ...
顔面を地面に押し付けたままうめき声をあげるエッダちゃん。
うぅぅ...死ぬぅ...
という声と共にエッダちゃんは死の淵から生還した。
あれーなんだっけ・・・
痛いよ・・・全身痛い・・・
私はどこで何をしてたの・・・? アヴィールは・・・?
はっ!アヴィール!!!そだ!アヴィールは!?
起き上がって見回すと、アヴィールがいた場所には冒険者の魔法によって黒く焦げた跡があるだけでした。
髪の毛一本でも...ないのね...
はぁ...
終わった...私の人生終わった...
悲しいけど、つらいけど、今までのような暗い情念のような物はエッダちゃんの心からはもう無くなっていました。
私がやれる事はやり尽くした...よね。
私がやれる事はもう無くなったんだよねきっとこれ...
かえろ...でもどこへ?
故郷?...
あれ?今までの事が色々思い出せない・・・
とりあえずタムタラから一番近いグリダニアへかえろ...
でも・・・さっき私の名前を呼んで起こしてくれたのは誰?
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