ep.12 ゾンビとエッダちゃん。
おねえちゃん、このくさはたべられるにゃん?
それは...多分おいしくないやつにゃん。
おねえちゃん、おしっこ...
川の浅い所ですればいいにゃん。
グリダニアの北から市街を縦断して南の翡翠湖に向かって流れる紅茶川。
五年前の第七霊災からさらに遡る事六年。
街の入口の傍を流れる紅茶川の川原に幼いミコッテ達が身を寄せあって生きています。
マーシャー!ニーナについていってあげて。
はーい。
おねえちゃん、今日は矢がたくさん落ちてたの!あとで見ておいて!
まあすごーい! これは久しぶりにパンを買えるかもしれないにゃあ...
んみゃあ!んみゃあ!んみゃあ!
おねえちゃん!エバが泣いてる!
エバは元気がいいにゃあー!お腹すいたにゃん?
基本的に、ムーンキーパーには父親は存在しません。
もちろん生物学的な父親は存在するのですが、ムーンキーパーは元々男子の出生率がとても低く、男性として成人しても家庭を持たずに一生涯旅を続けるのが種族的な習性の為、子供は母親のみで育てるのが一般的でした。
男系で氏族を構成するサンシーカーとは対称的なのです。
しかし不幸にも母親を早くになくした場合、子供たちは幼くして自立を余儀なくされます。
エオルゼア各地の給仕や踊り子などをして働く自立した女性たちにムーンキーパーがとても多いのは、第七霊災のずっと前からエオルゼアの伝統なのでした。
そうだ!わたしもおっぱいでないかにゃあ...
クスクスッ
おねえちゃんのぺったんこの胸からなんにもでるわけないにゃん!
やってみないとわかんないにゃあ!
ほれっ!
ちゅっぱちゅっぱちゅっぱ...!!
あひゃひゃひゃ!こちょばい!!あひゃひゃ!むりこれ!!あっひゃっひゃっ!
ほーら赤ちゃん産まないとむりなのよ!
うーん...そうかもしれないけど、きっとエバはちゅっぱちゅっぱがしたいにゃん。
ほれっ!
ちゅっぱちゅっぱちゅっぱ...!
あひゃひゃひゃ!!
あっはっはっ!おねえちゃんてばさいこうね!!
月の明るい夜は、ムーンキーパーが一番活動的になる時間帯でした。
五人姉妹のミコッテ達はグリダニアの多くの冒険者たちに見守られながら元気に育っていったのでした。
アニア...交代して...
ちゅっぱちゅっぱするの...もう限界...
うっふっふっ...
んん...
はっ・・・!
夢...?
ふぁあああ...!楽しい夢見たにゃあ!!
マーシャ、アニア、ニーナ、エバ...
みんな元気かなぁ...
ぱたぱたっ...
シーツの上に液体がこぼれ落ちます。
あれっ...涙?
おかしいにゃあ...悲しい気分じゃないのに...
ぱたぱたっ...
あれあれっ...
マーシャ、アニア...ニーナ...エバ...
ヒルディブランドさまぁ...
えーんえーん...
・
・
・
よしっ!涙が出たらスッキリしたにゃん!!
今日もバッチリメイクして、ビジネススーツでカッコよく事件屋出動ですー!!
さてと。
そろそろウルダハ滞在を終わりにして、リムサ・ロミンサに向かう頃合だろう。
魔力の不足を補うエーテルポーションもたっぷり作ったし、着替えの服だって裁縫の練習がてらにいっぱい作った。
すっかり準備は万端だ。
そう思って旅支度を整えにマーケットに行く途中だった。
なあ、あんた最近ウルダハに来た冒険者だろう? 俺は毎日街を見てるから見慣れない冒険者がいたらすぐわかるんだ...
大通りにいつもいる情報屋らしい人から声をかけられた。
は、はい、なんでしょう?
あんた...事件屋って二人組を知ってるか?
事件屋の二人組...?
あの...もしかして...
ダラガブの落下を止めたっていうヒルデさんと助手の二人組の事ですか?!
ヒルデさん?
あっはっはっ!
あんたブラックブラッシュの酒場の爺さんから聞いたな?
えっと...はい、確か...コッファー&コフィンのアルレトさんからお二人の事を聞いたんですが、あなたもご存知なんですね!
ああそうだ...あのアルレト爺さんの話は本当なんだぜ。
第七霊災の前、キャンプ・ホライズンにあった爺さんのかぼちゃ畑から、ダラガブに向かって勇敢に飛び立って行った勇者の名は...
すごい!!お爺さんのお話は本当だったんだ!!
やっぱりヒルデさんのおかげでエオルゼアは救われたんですね!!
それで...今はどうなさってるんですか?
ヒルデさんは、無事にエオルゼアに帰還されたんでしょうか?
オッサンは...死んだよ。
ダラガブから落下した跡には遺体すら見つからなかったらしいがな...
まぁ...
今は助手のナシュちゃんがオッサンの跡を継いで一人で事件屋をやってるんだが、なかなかうまく行かないらしくてな...
今は怪しいゾンビーの事件を調べてるらしいんだが...
ゾンビーですか!!
...こんなに早く手がかりが見つかるなんて!ツイてるわ!!
おっ!興味があるなら、ナシュちゃんは今、ドライボーンの北の聖アダマ・ランダマ教会にいるはずさ。
俺は仕事でウルダハを離れられないから、良かったらあんたナシュちゃんを手助けしてやっちゃくれないか?
わかりました!行ってみます!!
ああ、気をつけてな。
・
・
・
やった!!やった!!
ツイてる時は即行動しないと!!
まずはセヴェリアン先生に報告しに行こう!!
先生!セヴェリアン先生!!
手がかりを見つけました!
む。
お前か。
もう手がかりを見つけたのか、やけに早いな...
今、おかしなゾンビー事件が発生してるそうなんです!
今からその調査に行ってきます!!
そうか...
あれから俺も考えてみたんだが...
そもそもお前はどうやって死んだ恋人を化け物に変化させたのだ?
あ...全然わかりません...覚えてないので...
お前自身にも死んだ恋人にも、呪術の知識も経験も無く、パーティの誰もそういう物と一切無縁だったのだろう?
やっぱりおかしいな...
はい...そうですね...
お前の恋人が亡くなった後、お前を騙して罠に嵌めた者が存在するのかもしれないぞ。
「亡くなった恋人を甦らせる方法を教えてやる」などと言って傷心のお前を騙し、死人を化け物に変化させる呪術を行わせた...
待てよ...その恋人が死んだ事さえも、元々罠かもしれないな。
え...アヴィールは...誰かに殺された...?
事故ではなく...??
そういう可能性もある...という事だ。
タムタラの墓所に大量のゾンビーを放って操っていた...
なぜだ?
そのゾンビー達を操ってお前の恋人を殺害した...
なぜだ?
お前を騙して恋人の亡骸を化け物にした...
なぜだ?
最後に...
お前から人格を...魂の一部を抜き取った...
何か...何か理由があるはずだ。
これらを行った犯人が全て同一人物であるならば...
見えてくる答えはなんだ...?
まだ何か...重要なピースが欠けている...
ああ...
お前、名前は?
いい加減覚えてください...
エッダです。
うむ...
エッダ、悪いことは言わない。
この一連の事件からは手を引いた方が身の為かもしれぬ...
これだけの事を1人でやってのける人物なぞ、既に常人の域をはるかに超えている。
人間の魂を弄ぶかの如き所業...この私にすら不可能なのだからな。
そのような人知を超えた存在に、今のお前が対抗できるのか?
うう..
自信はないです...
でも...先生に教わって作ったポーションもあるし、他の先生方から教わった道具や装備もあるし、私だって頭脳で勝負しますよ!!
そうか...全く...
やはりお前には...何かが欠けている。
しかし、それくらいでないと、こんな危険な冒険に出ようとは思わないか...
並の冒険者と違うのはそこか。
エッダ。
私は駆け出しの冒険者の名前なぞ覚える気はない。
どうせすぐに死ぬからな。
だがエッダ。
お前の名前は覚えておくぞ。
この案件は非常に興味深い。
いいか。
敵がここまで手の込んだ事をする理由は...
おそらく、お前の失われた魂や記憶そのものにある。
ここまでの凝った仕掛けをするだけの理由が...
何か...
絶対に何かあるのだ。
それこそが、真実を解き明かす最後のピースに違いないぞ。
必ずや生きて、この案件に関する新たな情報を私に伝えに来い。
わかったなエッダよ。
はい!約束します!!
自作の大量のエーテルポーションをチョコボかばんに詰め込んで、グリダニアからウルダハに来た時の道をそのまま戻っていく。
一度通った道だ。わけはない。
お昼には聖アダマ・ランダマ教会に到着したのだった。
ドライボーンの上部のチョコボ留を通り過ぎると、すぐに教会の墓所が見えてくる。
ふと見ると、入口からほど近い墓石の前でしゃがみこんでいるスーツ姿を見つけた...!
きっとあれだ!
あれが噂の事件屋に違いないわ...!!
チョコボのアンナから降りて、手網をそばの木にくくりつけ、そっと声をかける。
突然すみません...事件屋の方でしょうか?
ウルダハのワイモンドさんから聞いて来ました。
返事はない...
ミコッテの耳が垂れ下がり、俯いている...
もしかして...泣いているのかもしれない...
きっとそうだ...
このお墓はおそらく...亡くなった勇者ヒルデさんの...
すー...すー...
息づかいが聞こえる...
あのー・・・
あっ・・・そうだ
よかったらハンカチつかいますか?
ローズ先生に教わった刺繍の練習台となった自分のハンカチをそっと差し出す。
返事はない・・・
あのー・・・
顔をそっと覗いてみた。
すー...すー...
安らかな寝息をたてて、ミコッテは墓石の前でぐっすり眠りこけていたのでした。
あとがき
初めてお読みになった方、ありがとうございます。よろしかったらエピソード1から楽しんでください。
続きを待っていてくれた方、お待たせしました。エピソード12です。
海外の人気ノベルには複数の作家達によって書き続けられるシリーズというのがわりとあります。
たしかスターウォーズのノベライズなんかがそうなんですが、海外作品の場合、翻訳者が同一人物なら、そこがクッションになって読者に違和感が無いようにしてるんじゃないかと私は想像するのですが、FF14の場合、作家による個性は活かして残す感じですねぇ。
今回から事件屋と絡んで来るのですが、事件屋の話とエッダちゃんの話とFF14のメインの話と、3つの話をそれぞれ壊さずに、うまく活かしながら、エッダちゃんが生き残るオリジナルの話をまとめるのに苦労しました。
考えがうまくまとまりそうになった時に漆黒のメインが始まり、漆黒との整合性をとる必要も出てきて、また何度も考え直しました。
オリジナルを書くにあたって自分なりに世界設定を調査しながら書いていますが、私の創作も混ざっているので少しご説明致します。
ナシュ・マカラッカは黒衣森出身の五人姉妹で、妹の一人がプリンセスデーの三美姫の一人、マシャ・マカラッカなのは知られています。
マシャ以外の姉妹は名前も全くわかっていないので創作しました。作中の名前は私のオリジナルです。
ナシュとマシャの二人の名前からロシア系のネーミングではないかと推察しました。
ムーンキーパーの設定にはほんの少し私の想像が混じっているかも知れません。
父親がいないから女手一つで娘たちを育てたというのは、ムーンキーパーの木工師、チェミ・ジンジャルさんの家庭がまさにそれでしたね。
もしも母親すらいなかったら・・・子供たちだけで生きていくのはさぞや大変でしょう。
実際に、ファイナルファンタジー14の世界の中に男性のムーンキーパーはプレイヤーキャラクター以外にはほぼ存在しません。
エッダちゃんにヒルディブランドの過去を語ったというコッファー&コフィンのアルレトさんは、私のオリジナルストーリーのエピソード8にも登場した、現在の酒房コッファー&コフィンでいつも居眠りをしているおじいさんの事です。
新生以降はブラックブラッシュの酒房コッファー&コフィンで居眠りしているだけのおじいさんですが、旧FF14では重要な役割りを果たしました。
簡単に旧FF14の事件屋の一部を説明します。
ダラガブの落下を止める為、ウリエンジェの予言詩を解読して、かぼちゃ畑を探すヒルディブランド。
現在のホライズンのもう少し西に、第七霊災前はキャンプ・ホライズンという場所があり、そこでアルレトおじいさんが「旅亭」コッファー&コフィンを経営していました。
そこにアルレトおじいさんがかぼちゃ畑を持っていたのです。
ヒルディブランドはアルレトおじいさんが若い頃に使っていた鎧と盾を譲り受けました。
その後、アルレトおじいさんが農作業に使っていたガン・ハルバードを畑で暴発させてしまい、ダラガブ(の方)へと単身飛び立って行ったのでした。
ちなみにそのガン・ハルバードは、ガレマール帝国軍・第VII軍団の軍団長ネール・ヴァン・ダーナスのガンハルバード「ブラダマンテ」であり、アルレトさんがクルザスの行商人から買った物でした。
事件屋新生編は、この旧FF14のストーリーから完全に繋がっています。
事件屋新生編でヒルディブランドが最初に着ていた鎧は元々アルレトおじいさんの鎧だったのです。
このアルレトおじいさんの思い出は、旧FF14で彼がヒルディブランドを呼ぶ時に使っていた「ヒルデさん」という呼び方と共にエッダちゃんへと受け継がれるのでした。
ep.7.1 カエルとエッダちゃん。
以前パーティーを組んでいたリアヴィヌさんとパイヨ・レイヨさんとはグリダニアで出会ったのだった。
社交的で調子のいいアヴィールが酒場で二人を見つけてパーティーに引っ張りこんだのだ。
リアヴィヌさんはなぜか最初から私にはあまり優しくなかったのだけど、それでも彼女からは女性冒険者としての基本を色々と教えてもらったものだ。
たとえば...
「新しい土地に行ったらまず安全な水場を探せ」だ。
言うまでもなく、洗濯とトイレの為である。
男性冒険者はトイレなんてそこら辺の物陰ですればいいんだろうけど、女性の場合、体は流水で綺麗に洗い、ついでに下着も洗濯してこまめに着替えるのが「冒険者乙女のたしなみ」なのだそうだ。
リアヴィヌさんからそう教わった。
腰から下を全部河の水につけていれば、見られる心配もないという訳だ。
流水で体をきれいに洗って清潔にする事は病気の予防にもなるし、体臭を消す事は冒険で生き残る上でも非常に重要であるらしい。
排泄や生理の時だけじゃなく、夜の営みの後にも水洗いしておかないと尿道炎や膣炎になるそうだけど...
夜の営みって???
あ...!
リアヴィヌさんは...その...
営んだ事があったのかな...?
いつ...?
誰と...??
まさか...
...
だからまあ、あなたが万が一、河などで下半身を水につけてしゃがんでいる女性冒険者を偶然見つけたとしても、気さくに挨拶したり、じーっと見つめたりしてはいけない。気づかない振りをして即座にその場を立ち去るのが冒険者のマナーである。
もう一度言う。
じろじろ見てはいけないのだ。
あのね...
あの...
こっちみんなっつってんでしょ!!!
何だか熱い視線を感じて、そちらをキッと睨みつけると、大きな丸い目がこっちを見ていた。
首を横にかしげる。
反対にもかしげる。
大型のカエル、トキシックトードだった。
アンホーリーエアーの大岩の影。
そこにチョコボのアンナを止めて水を飲ませつつ、さらにその影で、大岩とアンナに挟まれるようにしてこっそりしゃがんでいる女性冒険者を見つけてしまったカエルなのだった。
・・・
なんとなくドライボーンのミコッテのウエイトレスを思い出した。
あのウエイトレスもなぜか私をじーっと見つめてきたっけ。
ふむ...
あれはきっとミコッテの習性なのだ。
野生動物の、というべきか...
動く物はとりあえずよく観察する。
相手に敵意がないかどうかを確認する為だ。
そしてお互い目を合わせたら、敵意のない証拠を示す為に、ゆっくりとまばたきをするのがネコ科動物同士の挨拶なのだという事を聞いた事がある。
それって誰から聞いたんだっけか...?
そうだ...パパから聞いたのだ...
今度ドライボーンに行ったらやってみよう。
...
それってカエルには通用するのだろうか...?
カエルとの距離は5ヤルムといった所か。
大丈夫だ。
多分...
緊張しながらゆっくりと瞬きをする。
二度...三度...
ニコッと笑いかけてみる...
こ、こんにちわぁ...
ぴゅっと音がしたかと思うとカエルの長い舌が5ヤルムの距離をあっという間に飛んで来て、両方の二の腕ごと胴体に巻きついた!
やられた!
これでは身動き出来ない!
カエルの舌が口の中に戻る!!
腰から下はまだ水の中だ!!!
ザーッと水しぶきを上げながら一気に体を引っ張られる!!
絶体絶命の危機を感じ、半狂乱になって叫ぶ!
わぁぁぁぁぁ!
アンナ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ー!!!
クケーーーーッ!!!
主の危機を既に察知していたアンナが、カエルまで5ヤルムの距離を、舌が縮むよりも速く一瞬で飛んできた!
そしてカエルの手前で体をクルっと反転させたかと思うと、後ろ足をカエルの柔らかい胴体に全力でぶち込んだ!!
ズドーーーーン!!!
四足歩行のウマの走行スピードを二足で軽々と超えるチョコボの脚力は、当然だがウマなんかの比ではない。
しかも助走をつけた全力のチョコボスピンキックをまともに食らったら、クルザスのポーラーベアーでさえも無事ではいられないだろう。
轟音と共にそれはアンホーリーエアーの大岩に激突した。
カエルが、ではない。
カエルの胴体を穿いたアンナの踵が大岩に激突したのだった。
はぁはぁはぁはぁ...
ありがとう...助かったわアンナ...
まだ胴体に巻きついているカエルの長い舌を外す。
舌は根元から千切れていた。
アンナは自分の足に絡みついたカエルの大腸を外すのに執心していた。
よかった...アンナが一緒で...
こんな所もしリアヴィヌさんに見られたらお腹抱えてバカ笑いされるに違いないわね...
くそう...カエルもリアヴィヌさんも嫌いだ...!
バッグからタオルを出して体を拭き、スロップとシューズを履いて身支度を整える。
アンナもカエルの残骸をやっと足から引き剥がせたようだった。
さあ行こうかアンナ。
クエッ!
この水場はあまり安全ではなかったようだ。
ほんの数刻後、私はもっと安全な岩の洞の水場を発見して舌打ちする事になる。
危険な水場での経験は私に教訓をもたらしてくれたが、すぐに私はもう一つの教訓を思い出した。
チョコボの脚力は非常に強い。
ベントブランチ牧場で働いた時、1番最初に私がケーシャさんに強く教えられた事は
「決してチョコボの後ろに立つな」
だった。
その強い蹴り足で、濡れた泥を盛大に跳ね上げ、走り出した途端に私の髪と背中は泥だらけになったのだった。
はぁ...なんてこと...
もういいや...ブラックブラッシュ停留所はもうすぐそこだ...
1ヤルム=1ヤード=0.9144メートル
【あとがき】
私の拙い文章を読んでくださる皆さんは毎日ファイナルファンタジー14を楽しんでらっしゃる事と思います。
FF14の世界にはとても多くの食事や飲み物が存在し、調理師というジョブまであるのに、それらを消化して体から排泄する事が全く描写されていませんよね?
それはわざわざゲームの中で見せる必要のない行為ですが、ファンタジー世界の住人に深く感情移入して、彼らの日々の生活を想像すると、生活の隅々まで色々と細かく想像を膨らませてしまいます。
だってさ、クガネとイシュガルドのトイレが全く同じ様式だとはとても思えないでしょう?
旅に出たらどうしてるの? ダンジョンでは?
気になりますよね?
ここでツール・ド・フランスで実際にあったエピソードを語らせてください。
ツール・ド・フランスとは、ロードバイクという競技用自転車に乗ってヨーロッパの各地を走り、アルプス山脈を越え、パリのシャンゼリゼ大通りでゴールするという世界で一番有名な自転車レースですが、去年のレースのアルプス越えで、総合トップを走っていた選手が急に自転車を放り出して全裸になり、コース脇の草むらに飛び込むというトラブルがありました。
アルプスの寒さでお腹を下したんですね。
これには世界中のファンが騒然となりましたが、ネットの反応は日本と欧米ではちょっとだけ違っていました。
日本のファンが「紙はあったのか?」とツイッターでつぶやいたのに対して、欧米のファンは「河はあったのか?」とつぶやきました。
これ、日本と欧米ではトイレの起源が違うからなのです。
日本の原始的なトイレは多分穴を掘ってそれをトイレにし、紙などで体を拭く様式。それに対して欧米の一番古いトイレは多分インドのガンジス川みたいなもの。天然のウォシュレットなわけです。
欧米のホテルに行くと、お風呂とトイレと洗面台が一緒になっていますが、顔を洗う洗面台とは別に、トイレの後に使われる背の低い洗面台が必ずあります。それがいわゆるビデです。
トイレを使った後に、隣のビデでバシャバシャと体を水洗いするのです。そして専用のタオルで体を拭いて終わりです。
さて、エッダちゃんが旅するエオルゼアはどうでしょうか?
調度品に洗面台やシャワーが存在するので、水道があって蛇口をひねると水が出るのは間違いないのですが、水自体は水車で汲み上げてたりするのだと思います。
しかし旅先では河を利用するのではないかと私は考えました。
おそらく生理用品や赤ちゃんのオムツなどは手縫いの布製で、毎日洗って乾かして使うのだと思います。それならば、旅先でもこまめに河で洗濯をするのは絶対必要ですし、体についた雑菌を流水で綺麗に洗い流して衛生状態を保つ事も、冒険者として必要な事だと私は考えました。
旅に出る時、男性冒険者なら「水筒に水を入れていこう。なんならお酒でもいいや。」とか考えるかもしれませんが、女性だとまず行き先の地図を見て安全な水辺を必ず確認するでしょう。
そんな女性冒険者としての基本中の基本を、エッダちゃんはリアヴィヌさんから教わったと私は想像します。
たとえ恋のライバルであろうとも、命がけの冒険者パーティの中で、自分以外の同性の冒険者という存在は、唯一無二の相方と言ってもいいと思うので、女性が生き残る為に必要なあらゆる情報をエッダちゃんとリアヴィヌさんは共有したはずなのです。
私は自分の想像に自信を持ってこの文章を書きましたが、ネタがネタなので、それに対して嫌悪感を持つ方もいらっしゃる可能性があるかもしれないと考えて、この文章をボツにしたのでした。
私はFF14の本編ストーリーや設定を壊さないままで、エッダちゃんが冒険者として元気に生きるオリジナルストーリーを考えています。
この先、紅蓮も漆黒もしぶとく生き続けるエッダちゃんを書いていきたいのですが、本編の設定を完全に遵守し、そのままサブストーリーとして組み込まれても不自然のないストーリーにしたいと私は思うのです。
その為には、現在本編で進行中の漆黒のメインストーリーや世界設定を完全に理解し、どこをどのくらいオリジナルで書けるかをよく考える必要がありました。
漆黒のシナリオはまだまだ続くのですが、以上の点を踏まえつつ、少しづつ私のオリジナルストーリーも再開していきますので、よろしくお願いします!
ep.11 純白のエッダちゃん。
一度死んだ、だと?
バカもの。
言葉という物は正確に用いなければ、お前の真意もまた正確には伝わらないのだ。
覚えておくがいい。
人間一度死んだらそれきりだ...
「死にそうになった」ならともかく、心臓が一度止まったりしたのでなければ、一度死んだなどと言うべきではない...
止まりましたよ...
えっと...たぶん...
セヴェリアンはそれを聞いて急にこっちをちゃんと見てくれた。
ほう。詳しく話せ。できるだけ正確にだ。
錬金術の薬品はあらゆるクラフトで必要になると聞いてやってきたら、セヴェリアンに捕まったエッダちゃん。
セヴェリアンにタムタラでの経緯を細かく説明するのでした...
おい...確認するぞ...
お前は冒険者としてそこに行ったのではなく、そこで冒険者を待ち構えていたのだな?
なんの為に?
うーん...記憶が無くなっててよくわからないんですが...
どうにかして、死んだ私の恋人を蘇らせようとしたんだと思います...
なんだと?
遺体の損壊が激しかったのだろう?
それでは白魔法では蘇生不可能なはずだ。
何か別の魔術だろうか...?
お前は...死者を蘇らせる方法を知っていたと言うのか?
どこでどう知ったのだ?
それも覚えていません...
ただ、以前の仲間や冒険者をゆかりのあるダンジョンに呼び出して、何か計画していた...のだと思います。
ふむ...復活の儀式か何かだろうか?
それで?
そこに来た冒険者と私の恋人が...戦い...
私の恋人が...消滅した...
かな?
待て。
お前の恋人はとっくに死んでいたのではなかったか?
はい...そのはずです。
それはハッキリ覚えています。
それよりもっと前に、同じダンジョンで命を落としたんです。
同じダンジョン...どこだ?
グリダニアのタムタラの墓所です...
それは確か...ゲルモラ時代の墓所だな。
危険なモンスターもいたかもしれない...
お化け...ですか?
バカもの。
そもそも死という事象は、魂であるエーテルが、何らかの理由により肉体を離れてしまい、元に戻らなくなった状態を指すのだ。
肉体そのものが壊れた、とかな。
墓所に出没するモンスターは、そんな壊れた体をヴォイドから来た妖異等が勝手に操っているか、墓所の残留思念をヴォイドから持ってきた別の器に入れているか、もしくはヴォイドから来た妖異そのものか、そのどれかの可能性が高いのだ。
死者の肉体に、死者の魂そのものではなく、一部の強い衝動だけを呪術で無理やり結びつけた場合は復活ではなく、ゾンビー化という。
あっはい...
むっ?
タムタラの墓所にもゾンビーがいたのか?
いました...
ふむ...ゾンビーは呪術師を介さずに自然発生する物ではない。
ゾンビーを作った呪術師が存在するという事か...
白魔道士ならば蘇生スペルの心得があるだろう?
白魔道士の蘇生スペルを行使しても元の肉体に戻ってこない魂は、エーテル界へと移動し、もう二度と同じ肉体には戻らない。
そしてその魂はいつか別の命に生まれ変わる。
おそらくだが、お前は恋人の死が受け入れられず、恋人をゾンビーか何かにしたのだろう。
そしてより完全な蘇生を求めた...
しかし、冒険者によって返り討ちにあった...という所だろうか...
それで...
お前が作ったゾンビーは戦いに敗れ、お前も冒険者に殺されたのか?
アヴィールは...私の恋人は...完全に焼き尽くされて、そして...
うう...そして私は...落ちた...?
落ちた?どこから?どこへだ?
タムタラの円形の舞台から、周囲の深い谷底へ...かな...
深い谷底か。落ちたら死にそうな高さなのだな?
それで、その後目覚めた時の状態は?
それが...円形の舞台の中央で寝ていて...誰かに名前を何度も呼ばれた気がして...意識を取り戻しました。
おかしいじゃないか。
お前は周囲の谷底に落ちたんだろう?
どうして舞台の上で寝ているんだ?
よーく思い出すんだ。
その場に誰がいたのかしっかり思い出せ!!
うう...う...
ん?
おい...
まずい...
急に意識がなくなったぞ...
おい!戻ってこい!!
脈拍...正常。
瞳孔反応...正常。
おかしいじゃないか!!
なぜ意識が...いや...まるで魂が抜けたように...
ん?
うわあああ!!!なんですか急に!
変なことしないでください!!
バカもの!!
瞳孔反応を見ていたのだ!!
お前が急に意識を失ったようになったのでな。
えええ???
ふむ...自覚症状なしか。
まあいい続けよう。
気を失っていたお前を誰かが拾って助けてくれたんじゃあないのか?
ああそうか...
冒険者に助けられたのかもしれないな。
よかったな。
これに懲りてもう二度と馬鹿な真似はするなよ。
死者を完全な形で蘇らせるなんて...錬金術を持ってしても...いや、なんでもない。
そ、そーなのかなぁ...
でも...その後からエーテル...というか...魔力が...多分元の半分くらいになってて...記憶もかなり無くなってて...
まあ死にかけたんだからそれくらいの事はあるだろう。
きっとそのうち元に戻る。
ちなみに忘れたのはどんな記憶だ?
わかりません...
チッ...
では逆に覚えている記憶はどんな記憶だ?
えっと...子供の頃の楽しい記憶とかはよく覚えています。
あと恋人のアヴィールとデートした事とか!
えへへっ!
...両親が今どこでどうしてるとかは?
わかりません...
恋人が死んでから、お前が死にかけるまでの間の記憶は?
ありません...
セヴェリアンさんが私に顔をぐっと近づけ、目の中をを覗き込むように見つめる...
そして私の手を握って質問を続ける...
目が覚めてから今までお前は何をしていた?
えっと...グリダニアに宿泊しながらチョコボの牧場で働いていました。
死んだ恋人の事はどう思う?
彼が死んだのは残念だけど、私が冒険者として頑張って、彼の夢をいつか継ぎたいと思います!
彼の夢とは?
エオルゼアで一番有名な冒険者になる事...かな?
一番強い冒険者かも???
強い...?
彼は魔道士か呪術師だった?
いえ、彼は当時駆け出しの剣術士でした。
ふむ...知り合いにゾンビーを作るような呪術師はいるか?
そんなの全く知りません...多分...
そうなのか...だんだんわかってきたぞ...
セヴェリアンは一人で考えをまとめ始めた。
お前...名前は?
エッダです。
結論から言おう。
エッダ。
お前が失った物は記憶でもエーテルでもない。
「人格」そのものだ。
お前の中には恨みや悲しみや憎しみや妬みといった負の感情が完全に欠けている。
おっと、勘違いするなよ。
どんな人間でも、心に善悪、白黒あわせ持つものだ。そして皆、己が理性によってバランスをとって生きているんだが...
お前には全く負の感情が欠けている。
今のお前は、他人を巻き込む危険な呪術を行ってまで恋人を蘇らせようとした頭のおかしい女には全く見えないし、しかも恋人の夢を継いで前向きに生きるだと?
まるで二重人格じゃないか!
これは異常事態だ。
おそらくお前の失った記憶は、悲しい辛い記憶ばかりに違いない。
そして負の感情や悲しい記憶と共に、エーテルも半分失った...
そして無理に記憶を取り戻そうとすれば、意識が無くなってしまう...
それはお前の中の黒い人格が丸ごと無くなったという事だ。
負の感情や記憶というのは、強くしつこく、いつまでも残る物なのに...むしろそれだけが無くなるなんて...理由がわからないがな...
いや待てよ...
肉体が既に使えないと思って捨てられたのか...?
しかし、一時的に心臓が止まっていただけなら普通に蘇生出来たはずでは...?
なぜ蘇生せずに一部の人格だけを取り出したのか...???
ん?
たしか、ゾンビーがいたと言っていたな...!
最初から魂を取り出す事が目的なのか..!
そして...それを別の器に入れる実験か...?
では...その後名前を呼んで生き返らせたのは別の存在...?
お前、名前は?
エッダです。
エッダ。
これは私の推測に過ぎないが...
お前は用済みになって捨てられたのだ。
お前を谷底から拾い上げた存在は、最初からお前の黒い人格だけを狙っていた。
おそらく...忌まわしい呪術の実験に使う為にな。
今頃は何か別の器に入れられているかもしれぬ...
その後、お前の名前を知っている誰か別の存在の呼びかけによって、お前の肉体は、魂の残りカスだけを持って普通に蘇生した...という訳だ。
残りカス...
お前から黒い人格を盗んだのが誰なのかはさっぱりわからんが、まずまともな冒険者ではあるまい...
で、この後どうするのだ?
グリダニアの牧場で働くんだったか?
いえ、冒険者として頑張ろうかと...
無理でしょうか?
無謀だな。
お前、名前は?
エッダです。
エッダ。
人が生きていく上で黒い感情というのも時には必要になる事もあるのだ。
どうしようもなく過酷な状況下で何としても生き抜く為にはな。
そうでなくては冒険者としては生き残れないだろう。
何か...お前の欠けたエーテルや強い情念等を補うような存在でもあればいいのだが...
しかも...
これは俺の想像に過ぎないが...
お前の黒い人格を盗んだ犯人の目的がゾンビー製作であるならば...
お前の人格を持った強力なゾンビーが、いつかお前の前に敵として現れるやもしれぬのだ...
黒い感情は攻撃的でしつこい物だ。
今の白痴のお前ではまるで歯が立たないだろう。
白痴って!!
それじゃあ私おバカみたいじゃないですか!
せめて純白でお願いします!!
チッ...
純白のエッダと呼んで欲しいなら、お前が白痴でないという事を証明するんだな。
錬金術の課題を出しておく。
次に来る時に必ず提出するのだ。
それまでくれぐれも死ぬな。
課題を提出せずに勝手に死んだらお前の墓に「白痴のエッダここに眠る」と彫り込んでやるから覚悟しておけ。
やだぁ...それはやだなぁ...
安心しろ。
墓石代はおごってやる。
生き延びたかったら知識を身につけろ。
知は力だ!
そうすればいつかお前の失った人格を取り戻す事もできるやもしれぬ。
手がかりは...「死にまつわる呪術」だ。
ゾンビーとか...ですね...
断定はできない。
お前の魂が既に別の肉体に入れられていたら見分けがつかないかもしれないし、悪霊になってるかもしれない。
しかし...くれぐれも慌てない事だ。
今のお前では全く歯が立たないのだからな。
エーテル学の専門家に相談するのもいい。
私の専門は錬金術だからな。
本来エーテル学は専門外なのだ。
ああ、課題の中にエーテルポーションの作成も含まれているから自作して活用するがいい。
では、今日はもういいぞ。
あ、あの...私を助けてくれた人の手がかりとかは...?
それか。
そっちは簡単だ。
ひとつ、ダンジョン最深部にちょうど居合わせた。
ふたつ、お前の名前を知っていて呼び捨てした。
みっつ、命がけでお前を助けた。
強い想いはエーテルと共に現世に残りやすいらしい。
案外近くにいるのかもな...
えっ!!!
それって...まさか...!!
アヴィールの魂が...!!!
知らん!責任も持たん!!
それ以上はお前が自分で探すんだな。
はい!ありがとうございましたセヴェリアン先生!!
うむ。課題が出来たらまた来い。
思いがけず、自分自身の事故の謎を解く手がかりを見つけたエッダちゃんなのでした!
ep.10 修復するエッダちゃん。
くっふっふっふっ...!
ローズ先生から、私でも作れそうな服の型紙をコピーしてもらっちゃった!!
今度普段着を自分で作ってみよう!
やりたい事、やれる事がちょっとづつ増えて嬉しいエッダちゃん。
スキップで裁縫師ギルドから彫金師ギルドに向かうのでした。
でも...技能は先生に教わって練習すればいつか身につくかもしれないけれど、あの斬新な発想は一体どこから来るのかと、やはり疑問に思う。
私にもいつか、今まで誰も見たことないような素敵なドレスとか作れるようになるのだろうか?
彫金師ギルドは裁縫師ギルドのすぐ近くだった。
受け付けでコンパクトの修理を頼み、旅に出る前から考えていた事を話してみる。
あのー...私は旅の冒険者なので、もしかしたらまたコンパクトを壊しちゃうかもしれなくって...もし出来たら自分で修理出来るように彫金の技術を教わりたいと思うんですけど...
それはいい考えですね!ぜひギルドマスターのセレンディピティーにお話ください!
ありがとうございます!
こんにちは。ギルドマスターのセレンディピティーさんですか?
コンパクトを自分で修理したいので色々教えて欲しいんですけど...
いいですよ!
でも修理だけを教える事は出来ないんですよ。たとえば、再組立を前提に分解するには、普通にちゃんと組み立てる以上のスキルが必要なんです。
だから、よかったら基礎から習ってみませんか?
はい!ぜひお願いします!!
あ、ちょうど私の仕事の終わる時間だった。
よかったらお話ししながらご飯でも一緒に食べませんか?
あっはい。
いいんですか?
いいのいいの!着替えて来るので外でちょっとだけ待っててください!
ギルドの外で待ってると、すぐにセレンディピティーさんがやってきた。
買い物したいのでマーケットに付き合ってもらっていいですか?
いいですよ。行きましょう!
マーケットがどこだかよくわからないのでとにかくついて行く事にする。
彫金師ギルドから、サファイアアベニュー国際市場はすぐそこだった。
マーケットで何を買うんですか?
お夕飯の材料?
いいえ、趣味のアクセサリー作りの材料よ。
え?お仕事で毎日彫金やってるのに、終わってからまだやるんですか?
そうよ!
だってさ、可愛いアクセサリー作るのが好きで彫金師になったのに、何でも自分の好きな物作っていい訳じゃないし、ギルドマスターになっちゃうと、色々別の仕事も増えるでしょう?
だからね、100%趣味でやるアクセサリー作りが、私のストレス解消なのよ!
ほぇー...!!
じゃもう起きてる間ずっと彫金やってる感じなんです?
んーそうね!くっひっひ!
と、楽しそうに笑うセレンディピティーさん。
彫金のストレスを彫金で癒すんだ...!!
考えてもみなかった発想だった...
好きな事を仕事にするってそういう事なのか...
ローズ先生と同じく、セレンディピティーさんも、その道のスペシャリストなんだなって思う。
あっ私も服の材料を買っておこう!
ローズさんに裁縫習ってるの?
じゃあ彫金の基礎的な材料も買っおいてね!レシピもいくつか教えてあげるから。
やったあ!
マーケットの料理屋でフラットブレッドを買って、近くのベンチに2人で座る。
あっこれを先にやっちゃいましょうか!
フラットブレッドをもぐもぐしながらセレンディピティーさんがバッグから取り出したのは、私が彫金師ギルドの受け付けに預けたコンパクトだった。
これあなたのでしょう?
えーっと...エッダさんね?
面白そうだから持ってきちゃった!
まずは壊さないように分解...っと。
見慣れない工具を使って真鍮の留め具と蝶番をあっという間に全部綺麗に外してしまう。
外した部品は専用の洗浄液で綺麗に洗う...
とても手際が良い。
んーっ?
これってもしかして誕生日のプレゼントですか?
えっ!!分解しただけでそんな事までわかるんですか?
あははっ!まさか!
ほら...よく見てください...
鏡が付いてた所の裏に薄ーく文字が書いてあるでしょう?
...あ、ほんとだ...!
薄くて全然気が付かなかったけど、確かに薄ーく「Happy birthday Edda!」と書かれてあった。
しかし...それは左右反転した鏡文字だった。
これ...どういう事でしょうね?
鏡の裏で鏡文字なんて...
見えないし、読めないし...。
そーですね...
もしかして、これって前にも鏡が割れて修理した事あります?
あっはい。あります!
ふむ...わかりました。
これには...何か秘密がありそうですね...
ごめんなさい!!ちょっとギルドに戻って調べてみます!!
えっ?えっ?
もう仕事終わったんじゃあ?
うん!だからね、これはただの個人的趣味ですよ!!
じゃあまたねエッダさん!
ササッと買い物した荷物とコンパクトをまとめると、パチっとウインクしてセレンディピティーさんはギルドの方へと走り去って行った...。
すごい...
うん。
なんだかすごい人だ...
きっと彫金が好きで好きでたまらないんだなぁ...
ともあれ、コンパクトは修理してもらえそうでよかった。
砂時計亭に泊まって裁縫と彫金の練習をしながらコンパクトの修理が終わるのを待とう...
そして、二日後の早朝、まだ暗い内にオトパ・ポットパさんに起こされたのだった。
お客さんが来ていると言うので急いで出ていくと、セレンディピティーさんがクイックサンドで待っていた!
あっ!エッダさん!!出来たんです!コンパクトの修理が!
まぁ!わざわざありがとうございます!
でもどうしてこんな朝はやくに?
うふふっ!エッダさんにぜひ見てもらいたい物があるんですよ!
さぁこのコンパクトの鏡を朝日にあてて、影になってるあっちの壁に光を反射させてみてください!!
言われた通り朝日を反射して壁に光あてると、コンパクトの形に丸く光があたる...
そして...
その光の中に何か文字が見える!!
「Happy Birthday Edda!」
反対向きの鏡文字ではない!ちゃんと普通に読める!!
わぁっ!!なんですかこれ???
魔法ですか?
うふふっ!!
これはね、魔法じゃないのよ!
魔鏡っていうのよ。
魔鏡?
そう!鏡の表面を細かく削って光を反射したときだけそれが見えるように
してあるのよ。
へー!そーなんですか!!
でも近くで鏡を見ても文字なんて読めませんね...
ふふっ!面白いでしょう?
はい!でもどうしてこれを?
これはね、私の師匠コルベルヌの作品だったんですよ!!
えっ?でもこれはイシュガルド製だって聞いてますけど???
そう。表向きはね!
と、ウインクするセレンディピティーさん。
これは霊災のちょっと前かな?
イシュガルドの工房からの下請けで受けた仕事なのよ。
それに私はこの魔鏡コンパクトに見覚えがあったの...
えっ????
これは私が13歳の時に、彫金師ギルドで初めてコルベルヌ師匠に出会った時に見せてもらったコンパクトなの。
コルベルヌ師匠が「面白い物を見せてあげるよ」って言って、今と同じように朝日を反射して光の中に浮かぶ文字を見せられて、私は彫金の魅力の虜になったわ!
あれからもう6年になるかしら?
あら?
エッダさんは今おいくつかしら?
はい!私は今年で16歳です。
そのコンパクトは10歳の誕生日に両親からいただいたんです!
そっか...私は完全に忘れていました...!
実はこれを受け取ってすぐに幼なじみの男の子に壊されちゃって、多分私はこの魔鏡の文字を見るのは人生二度目...かな!
なるほど...
きっと前に修理を依頼された彫金師は魔鏡に気づいたけどそれを再現出来なくて、仕方なく次に修理するであろう未来の彫金師に希望を託したのね。
それが裏側の鏡文字。
裏側の鏡文字が正しく見えるのはいつ?
光が反射した先よ!
ほー...なるほど...
全くわかっていなかった...
ふふっ!上手く修理出来なかった前の彫金師を恨まないであげてね。
当時これが作れたのはエオルゼアではコルベルヌただ一人だったんだから!
私は過去の師匠の製作目録を探して、ついにその魔鏡の完全再現に成功したのよ!!
おめでとうございます!
あっ!もしかして一昨日別れてからずっと??
そうよ!お礼を言いたいのは私の方だわ!
師匠の作品をこうして完全に修復出来るチャンスをもらったんだもの!
あ、私の事はセレンって呼んでね。
そういえば...!
あなたこのコンパクトを修理出来るようになりたいって言ってたわよね?
ええっ?これはちょっと...
無理とは言わせないわよエッダ!
私がみっちり仕込んで、あなたがいつかこの魔鏡を自分で完全修復出来るようにしてみせるわよ!
覚悟しなさーい!!
えええー!!!
素敵なお姉さんが出来たみたいでとっても嬉しいエッダちゃんなのでした!
ep.9 修繕するエッダちゃん。
ベッドで目が覚める。
目が覚めた時に、水車の回る音と川のせせらぎと小鳥のさえずりが聞こえて来ないのはもう新鮮にすら感じる。
ウルダハの宿屋、砂時計亭だった。
いつも通り、顔を洗って髪をブラッシングして身支度を整える。
ふと見ると私のピルグリムロープは上下共にかなりくたびれているようだった。
タムタラで死にかけた時に焼け焦げた跡や破れた箇所がいくつもあり、それを何とか縫い繕って今日まで持たせている。
でも大丈夫だ。
私はママからちゃんとお裁縫も習っているもの。
欲しい物は自分で作る。
壊れた物は自分で直す。
それが生きる為に必要な事だと教えられた。
肘に空いた穴を塞ぐようにササッと縫いつける。
・
・
・
うん!見た目は完璧!
多少引っ張られる感じがするけどまぁ許容範囲だと思っておく。
ここは大都会ウルダハ。
チョコボの牧場とは訳が違うのだ!!
お世話になっているモモディさん、オトパ・ポットパさんに挨拶して、おすすめのクランペットとミルクたっぷりのザナラーンティーで朝食をいただく。
クランペットとは外はカリカリ、中はモチモチのパンケーキのようなものだった。
パン生地で作ったホットケーキと言えばわかりやすいだろうか。
ザナラーンティーと相性が良い。
しかし、これどうやって綺麗に丸く焼くのだろう?パン生地だから膨らむはず。
見ると、皿に載ってた二枚のクランペットは完全に同じ形をしている。
なるほど。
これは丸い型で焼いてるのかしら?
オーブン?いやフライパンかな?
メープルシロップが程よく染みていて朝から幸せな気分になる。
これなら自分でも作れるかもしれないので、メモしておこう!
大通りに出てみる。
エメラルドアベニューと言うらしい。
すごい。
石造りの都市ってすごく文明的。
これが、これこそが都市なのかと思う。
おっ!
すぐ近くに服飾店が見えるのでさっそく都会のファッションを見に行こう!
実用以外のオシャレな普段着って、都会の人はどんな服を選ぶのか興味津々だった。
マネキンに着せられた素敵な服が並んでいる...
なんか私が今まで見てきた服と色々違う...
肩の膨らみ。
ウエストの絞り。
大きく尖った襟。
ポケットのカッティング。
裾の広がり。
ママが作った服にはこんなのなかった。
・
・
・
これは...型紙が見たい...
そう思って展開図を頭の中で想像しながら縫い目を見ていると、後ろから声をかけられた。
あらー、随分その服が気になってるみたいね。
服を観察するのに夢中で振り返らずに答える。
ええ、素材の組み合わせも立体的な裁断も何から何まで私の想像を遥か超えているんですよ...
ちょっと理解が追いつかないレベルの素晴らしさなんです...
いつかこんなの自分で作れたらいいなぁ...
まぁ!ゆっくり見てちょうだい。上着を預かるわよ。
あ、はい。すいません。
言われるままローブを脱ぐ。
ねぇあなたは修復と修繕の違いを知ってる?
いえ...両方直す事ですよね...?
振り返ると、そこにはルガディンがいた。
驚いて呆然としていると、ルガディンは勝手に話し続けた。
美術品などの見た目を元通りにするのが修復。
日用品などの性能を元通りにするのが修繕ね。
このローブはあなたが命をかけて戦うのに必要な相棒なんでしょう?
あなたがこの子と一緒にいくつもの死線をかいくぐってきた事、よーくわかるわ。
そんな大切な相棒、これからもずっと一緒に戦っていけるように、きちんと修繕してあげなきゃかわいそうってもんよ。
そう言うと、今朝私が縫いつけた箇所をササッとほどいてしまう。
リアーヌちゃん、Aの5番とEの13番の端切れを持ってきてくれるかしら?
ハイっ!
っと返事をして、織物サンシルクの店長が大急ぎで奥の引き出しから端切れを出して持ってくる。
ねぇ物作りに一番大切なのは、愛情だと思うのよ。
それを着る人がどんな人で、どこでどういう風に着て何をしたいのか、それを一生懸命考えて、どうしたらその人が幸せになるかを想像するの。
私はその時間が一番幸せを感じるのよね。
修繕だってちょっと工夫して上手くやれば...
ホラッ!
前よりも上等に見えるくらいじゃないかしら?
そう言うと、ルガディンは私にローブを返してくれた。
肘にローブと同系色の薄手のレザーで当て布がしてある!!
ちゃんと左右両方だ!!
元々あった模様に合わせてカットしてあり、違和感など一切無く、むしろ高級感が増してさえいる!
あれっ??
でもそんな時間あったっけ?
袖を通してみてくれる?動きづらくないかしら?
あっはい...
わぁ!
当て布の裏側にもちゃんと裏地をあててサンドイッチしてある...!
ああっ!
破れそうになっていた袖口にも同じ薄手のレザーで補強がしてある!!!
いつの間に...!
神業だった。
目の前で、おしゃべりをしている数分でこれだけの修繕をこのルガディンはやってのけたのだ...
スペルの詠唱に支障はなさそうかしら?
あっ!はいっ!!
完璧です!!ありがとうございます!!!
私が白魔道士だという事も見抜いているようだった!
その場にいた全ての店員とお客さんから自然と拍手がおこる。
店長のリアーヌさんは目が潤んでいた...
天使だ...
いや、「大」天使がそこにはいた...
やだわ!私が作ったドレスを熱心に小一時間も見てる子がいるって聞いてちょっと様子を見に来ただけなのよ!
私はローズ。
裁縫師ギルドのレドレント・ローズよ。
私の作った服にそんなに興味があるなら私のギルドにいらっしゃい。
私が手取り足取り教えてさしあげてもよくってよ!
はいっ先生!!
都会にはすごい人がいるものだと感動しつつ、スキップで軽やかに進むローズの後を小走りで追うエッダちゃんなのでした。
ep.8 ラッシーとエッダちゃん。
私が生まれ育ったクルザスの村は、田舎過ぎて商店などは存在しなかった。毎月行商のチョコボキャリッジが、薬や調味料など色んな生活用品を売りに来てくれたものだ。
それを私たちはいつも楽しみにしており、動物の毛皮などと物々交換してもらうのだった。
私はアヴィールと一緒にセージやコリアンダーなどクルザスの野草を集めて持っていき、キャンディーなどの甘いお菓子と交換してもらったものだ。
ブラックブラッシュ停留所というのは、元々そんな行商のチョコボキャリッジがたくさん集まる拠点なのだが、現在は周辺の鉱山から採掘される鉱石をウルダハに送るトロッコ列車の駅でもあった。
たくさんの行商で賑わって市場みたいになっているのを想像していたのだけど、その期待は裏切られてしまった。
何か交換してもらえる物はあったかしらと考えつつブラックブラッシュに行くと、チョコボキャリッジなどなかったので、駅のプラットフォームに立つ女性に話しかけてみた。
こんにちはー。
あの...ブラックブラッシュ停留所ってここで間違いないですよね?
エトフレド「そうよ!あら、あなたは冒険者かしら?ウルダハに行くならアラグ星道を南、ホライズンに行くならアラグ陽道を西。ひと休みするならすぐそこに酒場があるわよ。」
ここって駅なんですか? もしかして人を乗せる列車も走ってるんですか?
エトフレド「いえ、残念ながらね。主にナナワ銀山で採掘された銀をトロッコで東アルデナード商会に送ってるのよ。」
そーなんですか!ありがとうございます!
列車に一度乗ってみたかった...
日も落ちてきたし、ウルダハはもう目の前なので、近くの酒場に行ってみる。
早めに夕食にしてもいいかもしれない。
ふと見ると、酒場の前で見知らぬ剣士が手招きしている。
用心棒「おーい!あんた冒険者なんだろ?俺はここの用心棒なんだが、よかったらキキルンを追い払うのを手伝ってくれないか?」
お酒を盗みに来るんですか?
用心棒「いや、金は持ってるらしいんだが、ウルダハは獣人排斥令が出てるんだよ。それにあいつら臭いから他の客に迷惑だしな。」
飲んべえググルン 「ちゃりちゃりあるっちゃー!」
「ガブガブっちゃー!!」
通りすがった他の冒険者達も手伝って、飲んべえググルンを追い払うのは難なく成功した。
そんなに美味しいのかな?
表にアンナを留めて店内へ入ってみる。
こんにちはー。
狭い店内だが銅刃団や鉱山で働く男達で賑わっている。
マスター「やあ、酒房コッファーアンドコフィンへようこそ。キキルンを追い払うのを手伝ってくれたんだろ?ゆっくりして行きなよ。」
はい、ありがとうございます! じゃあ何か飲み物を...
わあ、色々あるんですね...!
ミントラッシー...?
ラッシーってなんですか?お酒?
マスター「いや、ラッシーは発酵させたミルクで作るドリンクさ。うちのはミントの葉をすり潰して混ぜてあるから爽やかだぜ。」
へー飲んだ事ないです。ではそれを!
どこか座ろうと思ったら必ず相席になる。
隅っこのテーブルで居眠りしてるお爺さんと相席する事にした。
こんにちは。こちら相席失礼しまーす。
返事はなかったが、まあいいや...
店員の女性がミントラッシーを運んで来てくれた。
白いドリンクの上にミントの小さな葉っぱが一枚乗せてある。
まずはひと口...
んっ?
これは甘くない...でも飲みやすい。
なんていうか...飲むヨーグルトだろうか。
疲れた体を爽やかに癒してくれるようだ...
マスター「どうだい?ラッシーは砂糖やはちみつで甘くするのが一般的なんだが、うちは暑い中旅してきた客が気持ちよく飲めるようにミントを入れてある。それに隠し味にちょっと塩を入れてるんだ。」
それだ!隠し味の塩が、逆に素材の甘味を引き出してくれる...
爽やかで美味しい...!
アルレト 「わしは見たんじゃ...!落下して来るダラガブに向かって勇敢に飛び立って行く勇者をおぉぉぉ!」
マスター 「また始まった。親父の勇者の伝説。悪ぃな。その爺さんはうちの親父でな、霊災の時に勇者に会って覚えてるって言うんだ。」
えっ?あの光の戦士?誰も覚えてないって話に聞いた事ありますけど...?
マスター「そう、その光の戦士に会ったんだと。どうやらうちのカボチャ畑からダラガブに向かって飛び立って行ったらしい。爺さんの寝言さ。」
アルレト「寝言なもんか...!わしはあの光の紳士ヒルデさんを決して忘れんぞ!!あの方こそ霊災からエオルゼアを救った勇者なのだ!!!」
マスター「ほらな。紳士じゃなくて戦士だろう?もう寝てていいぜ。」
へー...お爺さんにも何か素敵な出会いがあったんでしょうね!
マスター「はは!そんな事言ってくれるのはお嬢さんだけさ!ま、今はそのカボチャ畑も海の底でね...」
へえ!ここじゃなかったんですね?
マスター「ああ、霊災前には今のホライズンのちょっと向こうに旅亭コッファーアンドコフィンてのがあってな、そこに立派なカボチャ畑があったもんだ。バハムートが暴れたおかげで津波で流されちまったがな。お嬢さんどっちから来たんだい?西?東?」
えっと東です。グリダニアから来ました。
マスター「じゃあアンホーリーエアーの大岩を見ただろう?池の真ん中にある大岩。あれもバハムートの時に空から降ってきたんだぜ。あんときにあちこち地形まで変わっちまったからな。こうして生きてるだけで儲けもんよ。」
ここも変わった場所ですね。こんな大きな岩の下なんて。
マスター「そうさ!この岩が落っこちたら、この店が丸ごと俺達のコフィンになるって寸法さ!まあ、それまでしっかり飲んでここをコッファーにしてくれよ。ミントラッシーのお代わりはどうだい?」
あっじゃあもう少し楽しいお話を聞きたいのでもう一杯いただきます!
マスター「そう来なくちゃな。」
そう言ってマスターは既に作ってあったらしいミントラッシーのお代わりを寄越してくれた。
んぐっ...
あれっ!さっきと違う...舌と喉に感じるこの刺激は...黒胡椒?
これは飲みやすくてグイグイいける!
マスター「おっ!センスあるねーお嬢さん!」
あはっ!マスターこれずるいです!!二杯目からは食も進みますね!
思わぬ所で第七零災の貴重なお話を聞けた...
カボチャ畑の光の紳士ってなんだろう...?
気になるなぁ...
やっぱり旅に出てよかった!知らない人と出会って色んなお話を聞けるのは素敵な事だ...
コッファーアンドコフィンで楽しいお話を聞いている内に、ウルダハに日が暮れていくのでした。
次→
ep.9 https://eddapureheartif.hatenablog.com/entry/2019/06/02/205012
ep.7 やまくしエッダちゃん。
エオルゼアにも乗用になりそうなウマ目や偶蹄目の動物達はいる。黒衣森にもユニコーンやエルドゴードとかいたし、ここ東ザナラーンにいる大型のヤギだってきっと飼い慣らせば乗れるだろう。ずっと東方の国にはウマを飼い慣らして乗ってる人達が大勢いるってパパも言ってた。
エオルゼアでチョコボが特にポビュラーになった一番の理由は高い知能だと思うし、コストの安さも大きな理由だと思う。
でも私に言わせると「乗りやすいから」だった。
だってチョコボは人を乗せる時にしゃがんでくれるもの!
ウマに乗る時、ウマはしゃがんでくれないんでしょ? それって鞍がついてなかったらどうやって乗るのかしら?
古代アラグ帝国時代からあるというアラグ陽道を、ザナラーンの大型のヤギ、ミオトラグス・ビリーとナニー達を眺めながら道なりに進むエッダちゃん。
キャンプ・ドライボーンは、ザナラーンの強い日差しを避けるように地下を掘り下げた場所に存在しました。
ザナラーンには数多くの遺跡らしき物が点在するのですが、ドライボーンもそんな遺跡の地下を利用して作られた補給拠点の様でした。
アマルジャ族の侵攻に備えて不滅隊が駐留する他、すぐ北に聖アダマ・ランダマ教会もあるのでわりと賑わっているのでした。
お昼の日差しを避けるようにエッダちゃんもドライボーンにやってきました。
チョコボ留にアンナを預けて、スロープを降りていきます。
広場は不滅隊の兵士や難民らしき人達で賑わっていました。その中央に立つ偉そうな男性に声をかけます。
こんにちは!私はグリダニアから来たんですが、こちらにお食事出来る所はどこかありますか?
イセムバード「冒険者か。あっちにバーがある。宿はこっちだ。」
ありがとうございます!
教えてもらったバーに行ってみる。
ハイブリッジを守っていた銅刃団というのは女性が多かったけど、ドライボーンにいるのはそれとは違う部隊のようで、男性ばかりだった。
こんにちはー。
薄暗い店内だが、楽しくやってる他のお客さんもいるみたいでまあまあ安心かな...
へいらっしゃい。
ミコッテのウエイトレスが声をかけてくれる。
お昼を食べたいんだけど、おすすめありますか?
ミコッテのウエイトレスはじーっとこっちを見たまま、黙ってメニューの大きな看板の一番上を指さした。
ミコッテ風山の幸串焼。
おいしそう。じゃあそれとジュースを!
あいよー。
オーダー!やまくしわーん!
あいよー山串ワン。
ゆっくりしていきな嬢ちゃん。
何だか気さくなお店だった。
空いてるテーブル席に座ったが、空き瓶が置いたままになっているので、こっそりテーブルの奥の方に押しやる。
すぐにカウンターの中から肉の焼ける香ばしい香りが漂って来た。
程なく、木製のジョッキに入ったグレープジュースをミコッテのウエイトレスが運んで来たので聞いてみる。
ミコッテ風ってどしてミコッテ風なんですか?
あーそれな。
うちらミコッテ族は狩猟民族でさ、狩りのネタが部族によって違うんだけど、狩りの時のメシは獲物をその場でさばいて食うのがミコッテの流儀なんだわさ。ここのドードーは、うちのおっとうが朝早く狩りで採ってきた新鮮なやつだぜ。
うっめぇから!
ムーンキーパーのミコッテはそういうと人懐っこく、にーっと笑った。
えーっ!狩り場ですぐさばくんですか?
ナイフ一本でススっとさばいてよ、それを串に刺して焚き火で焼いて食うんだ。
食わずに持って帰る獲物も、その場で血抜きをするのがコツなんだ。
その場で血抜き...???
そ。死んだらすぐに血抜きしないと肉が臭くなるからな。大漁の時はさ、クビをナイフでちょんぎったドードーを腰からぶら下げたまま、弓でどんどん次の獲物を狙うんだ。
えっ...それって血だらけになっちゃうんじゃ...?
そお!だからおっとうのパンツはいつも獲物の血で真っ赤っかになるもんだから、もう朝家を出る時から真っ赤っかのパンツ履いて行くんだ!傑作だべ!あっはっはっ!
ほい。山串あがったぜ!
あいよ!
ミコッテ風山の幸串焼が来たー!!
ドードーの肉とトマトとパプリカが串に刺してこんがり焼いてある。
ワイルドで美味しそう!
いただきまーす!
先っぽの肉にかぶりつく。
むぐっ...
固い?
ちょっと固いかも...
あ、でも噛んでると肉の味が凄い!
美味しいこれ!味付けは塩だけなんですね?
ああ。昔はラベンダーオイルで肉の臭みを消してたんだが、今はこいつの親父からいい肉を仕入れさせてもらってるからな。臭みなんて全然無いだろう?
はい!野菜もすごく味が濃い感じです!
野菜はうちの自家製だ。裏の畑で作ってるんだよ。知ってるか?水が少ない方が野菜の味が濃くなるんだぜ。
なるほどー!! いい材料を活かしてるんですね!
えへへっ!喜んでもらえてうちも嬉しいよ!さっきミコッテは部族によって狩りのネタが違うって言ったろ? このミコッテ風串焼きもさ、山串以外にも色々あるんだわ。よかったら旅先で他の串焼きも探してみなよ。
そーですね!旅の楽しみが増えました!
嬢ちゃんはこれからどこに行くんだい?
エオルゼア三国を回る旅ですが、つぎはまずウルダハです!
そか。じゃあアラグ陽道をこのまま行くと、ブラックブラッシュ停留所があるから、そこからアラグ星道を南へ行くといい。
アラグ陽道をそのまま真っ直ぐ行くとホライズンがあって、その先のベスパーベイからはリムサ行きの船が出てるはずだ。
ありがとうございます!
じゃあごちそうさまでした!!
うん!いつか他の串焼きをたべたら、どんなだったか教えてくれよ。うまいドードー仕入れて待ってるからよ!
はい!ぜひまた来ますね!
チョコボ留に行くと、アンナも水と野菜をいただいたようだった。
午後の強い日差しを浴びながらまた元気にアラグ陽道を駆けていくエッダちゃんなのでした。
次→
ep.8 https://eddapureheartif.hatenablog.com/entry/2019/05/30/053922