ep.7.1 カエルとエッダちゃん。
以前パーティーを組んでいたリアヴィヌさんとパイヨ・レイヨさんとはグリダニアで出会ったのだった。
社交的で調子のいいアヴィールが酒場で二人を見つけてパーティーに引っ張りこんだのだ。
リアヴィヌさんはなぜか最初から私にはあまり優しくなかったのだけど、それでも彼女からは女性冒険者としての基本を色々と教えてもらったものだ。
たとえば...
「新しい土地に行ったらまず安全な水場を探せ」だ。
言うまでもなく、洗濯とトイレの為である。
男性冒険者はトイレなんてそこら辺の物陰ですればいいんだろうけど、女性の場合、体は流水で綺麗に洗い、ついでに下着も洗濯してこまめに着替えるのが「冒険者乙女のたしなみ」なのだそうだ。
リアヴィヌさんからそう教わった。
腰から下を全部河の水につけていれば、見られる心配もないという訳だ。
流水で体をきれいに洗って清潔にする事は病気の予防にもなるし、体臭を消す事は冒険で生き残る上でも非常に重要であるらしい。
排泄や生理の時だけじゃなく、夜の営みの後にも水洗いしておかないと尿道炎や膣炎になるそうだけど...
夜の営みって???
あ...!
リアヴィヌさんは...その...
営んだ事があったのかな...?
いつ...?
誰と...??
まさか...
...
だからまあ、あなたが万が一、河などで下半身を水につけてしゃがんでいる女性冒険者を偶然見つけたとしても、気さくに挨拶したり、じーっと見つめたりしてはいけない。気づかない振りをして即座にその場を立ち去るのが冒険者のマナーである。
もう一度言う。
じろじろ見てはいけないのだ。
あのね...
あの...
こっちみんなっつってんでしょ!!!
何だか熱い視線を感じて、そちらをキッと睨みつけると、大きな丸い目がこっちを見ていた。
首を横にかしげる。
反対にもかしげる。
大型のカエル、トキシックトードだった。
アンホーリーエアーの大岩の影。
そこにチョコボのアンナを止めて水を飲ませつつ、さらにその影で、大岩とアンナに挟まれるようにしてこっそりしゃがんでいる女性冒険者を見つけてしまったカエルなのだった。
・・・
なんとなくドライボーンのミコッテのウエイトレスを思い出した。
あのウエイトレスもなぜか私をじーっと見つめてきたっけ。
ふむ...
あれはきっとミコッテの習性なのだ。
野生動物の、というべきか...
動く物はとりあえずよく観察する。
相手に敵意がないかどうかを確認する為だ。
そしてお互い目を合わせたら、敵意のない証拠を示す為に、ゆっくりとまばたきをするのがネコ科動物同士の挨拶なのだという事を聞いた事がある。
それって誰から聞いたんだっけか...?
そうだ...パパから聞いたのだ...
今度ドライボーンに行ったらやってみよう。
...
それってカエルには通用するのだろうか...?
カエルとの距離は5ヤルムといった所か。
大丈夫だ。
多分...
緊張しながらゆっくりと瞬きをする。
二度...三度...
ニコッと笑いかけてみる...
こ、こんにちわぁ...
ぴゅっと音がしたかと思うとカエルの長い舌が5ヤルムの距離をあっという間に飛んで来て、両方の二の腕ごと胴体に巻きついた!
やられた!
これでは身動き出来ない!
カエルの舌が口の中に戻る!!
腰から下はまだ水の中だ!!!
ザーッと水しぶきを上げながら一気に体を引っ張られる!!
絶体絶命の危機を感じ、半狂乱になって叫ぶ!
わぁぁぁぁぁ!
アンナ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ー!!!
クケーーーーッ!!!
主の危機を既に察知していたアンナが、カエルまで5ヤルムの距離を、舌が縮むよりも速く一瞬で飛んできた!
そしてカエルの手前で体をクルっと反転させたかと思うと、後ろ足をカエルの柔らかい胴体に全力でぶち込んだ!!
ズドーーーーン!!!
四足歩行のウマの走行スピードを二足で軽々と超えるチョコボの脚力は、当然だがウマなんかの比ではない。
しかも助走をつけた全力のチョコボスピンキックをまともに食らったら、クルザスのポーラーベアーでさえも無事ではいられないだろう。
轟音と共にそれはアンホーリーエアーの大岩に激突した。
カエルが、ではない。
カエルの胴体を穿いたアンナの踵が大岩に激突したのだった。
はぁはぁはぁはぁ...
ありがとう...助かったわアンナ...
まだ胴体に巻きついているカエルの長い舌を外す。
舌は根元から千切れていた。
アンナは自分の足に絡みついたカエルの大腸を外すのに執心していた。
よかった...アンナが一緒で...
こんな所もしリアヴィヌさんに見られたらお腹抱えてバカ笑いされるに違いないわね...
くそう...カエルもリアヴィヌさんも嫌いだ...!
バッグからタオルを出して体を拭き、スロップとシューズを履いて身支度を整える。
アンナもカエルの残骸をやっと足から引き剥がせたようだった。
さあ行こうかアンナ。
クエッ!
この水場はあまり安全ではなかったようだ。
ほんの数刻後、私はもっと安全な岩の洞の水場を発見して舌打ちする事になる。
危険な水場での経験は私に教訓をもたらしてくれたが、すぐに私はもう一つの教訓を思い出した。
チョコボの脚力は非常に強い。
ベントブランチ牧場で働いた時、1番最初に私がケーシャさんに強く教えられた事は
「決してチョコボの後ろに立つな」
だった。
その強い蹴り足で、濡れた泥を盛大に跳ね上げ、走り出した途端に私の髪と背中は泥だらけになったのだった。
はぁ...なんてこと...
もういいや...ブラックブラッシュ停留所はもうすぐそこだ...
1ヤルム=1ヤード=0.9144メートル
【あとがき】
私の拙い文章を読んでくださる皆さんは毎日ファイナルファンタジー14を楽しんでらっしゃる事と思います。
FF14の世界にはとても多くの食事や飲み物が存在し、調理師というジョブまであるのに、それらを消化して体から排泄する事が全く描写されていませんよね?
それはわざわざゲームの中で見せる必要のない行為ですが、ファンタジー世界の住人に深く感情移入して、彼らの日々の生活を想像すると、生活の隅々まで色々と細かく想像を膨らませてしまいます。
だってさ、クガネとイシュガルドのトイレが全く同じ様式だとはとても思えないでしょう?
旅に出たらどうしてるの? ダンジョンでは?
気になりますよね?
ここでツール・ド・フランスで実際にあったエピソードを語らせてください。
ツール・ド・フランスとは、ロードバイクという競技用自転車に乗ってヨーロッパの各地を走り、アルプス山脈を越え、パリのシャンゼリゼ大通りでゴールするという世界で一番有名な自転車レースですが、去年のレースのアルプス越えで、総合トップを走っていた選手が急に自転車を放り出して全裸になり、コース脇の草むらに飛び込むというトラブルがありました。
アルプスの寒さでお腹を下したんですね。
これには世界中のファンが騒然となりましたが、ネットの反応は日本と欧米ではちょっとだけ違っていました。
日本のファンが「紙はあったのか?」とツイッターでつぶやいたのに対して、欧米のファンは「河はあったのか?」とつぶやきました。
これ、日本と欧米ではトイレの起源が違うからなのです。
日本の原始的なトイレは多分穴を掘ってそれをトイレにし、紙などで体を拭く様式。それに対して欧米の一番古いトイレは多分インドのガンジス川みたいなもの。天然のウォシュレットなわけです。
欧米のホテルに行くと、お風呂とトイレと洗面台が一緒になっていますが、顔を洗う洗面台とは別に、トイレの後に使われる背の低い洗面台が必ずあります。それがいわゆるビデです。
トイレを使った後に、隣のビデでバシャバシャと体を水洗いするのです。そして専用のタオルで体を拭いて終わりです。
さて、エッダちゃんが旅するエオルゼアはどうでしょうか?
調度品に洗面台やシャワーが存在するので、水道があって蛇口をひねると水が出るのは間違いないのですが、水自体は水車で汲み上げてたりするのだと思います。
しかし旅先では河を利用するのではないかと私は考えました。
おそらく生理用品や赤ちゃんのオムツなどは手縫いの布製で、毎日洗って乾かして使うのだと思います。それならば、旅先でもこまめに河で洗濯をするのは絶対必要ですし、体についた雑菌を流水で綺麗に洗い流して衛生状態を保つ事も、冒険者として必要な事だと私は考えました。
旅に出る時、男性冒険者なら「水筒に水を入れていこう。なんならお酒でもいいや。」とか考えるかもしれませんが、女性だとまず行き先の地図を見て安全な水辺を必ず確認するでしょう。
そんな女性冒険者としての基本中の基本を、エッダちゃんはリアヴィヌさんから教わったと私は想像します。
たとえ恋のライバルであろうとも、命がけの冒険者パーティの中で、自分以外の同性の冒険者という存在は、唯一無二の相方と言ってもいいと思うので、女性が生き残る為に必要なあらゆる情報をエッダちゃんとリアヴィヌさんは共有したはずなのです。
私は自分の想像に自信を持ってこの文章を書きましたが、ネタがネタなので、それに対して嫌悪感を持つ方もいらっしゃる可能性があるかもしれないと考えて、この文章をボツにしたのでした。
私はFF14の本編ストーリーや設定を壊さないままで、エッダちゃんが冒険者として元気に生きるオリジナルストーリーを考えています。
この先、紅蓮も漆黒もしぶとく生き続けるエッダちゃんを書いていきたいのですが、本編の設定を完全に遵守し、そのままサブストーリーとして組み込まれても不自然のないストーリーにしたいと私は思うのです。
その為には、現在本編で進行中の漆黒のメインストーリーや世界設定を完全に理解し、どこをどのくらいオリジナルで書けるかをよく考える必要がありました。
漆黒のシナリオはまだまだ続くのですが、以上の点を踏まえつつ、少しづつ私のオリジナルストーリーも再開していきますので、よろしくお願いします!