ep.11 純白のエッダちゃん。
一度死んだ、だと?
バカもの。
言葉という物は正確に用いなければ、お前の真意もまた正確には伝わらないのだ。
覚えておくがいい。
人間一度死んだらそれきりだ...
「死にそうになった」ならともかく、心臓が一度止まったりしたのでなければ、一度死んだなどと言うべきではない...
止まりましたよ...
えっと...たぶん...
セヴェリアンはそれを聞いて急にこっちをちゃんと見てくれた。
ほう。詳しく話せ。できるだけ正確にだ。
錬金術の薬品はあらゆるクラフトで必要になると聞いてやってきたら、セヴェリアンに捕まったエッダちゃん。
セヴェリアンにタムタラでの経緯を細かく説明するのでした...
おい...確認するぞ...
お前は冒険者としてそこに行ったのではなく、そこで冒険者を待ち構えていたのだな?
なんの為に?
うーん...記憶が無くなっててよくわからないんですが...
どうにかして、死んだ私の恋人を蘇らせようとしたんだと思います...
なんだと?
遺体の損壊が激しかったのだろう?
それでは白魔法では蘇生不可能なはずだ。
何か別の魔術だろうか...?
お前は...死者を蘇らせる方法を知っていたと言うのか?
どこでどう知ったのだ?
それも覚えていません...
ただ、以前の仲間や冒険者をゆかりのあるダンジョンに呼び出して、何か計画していた...のだと思います。
ふむ...復活の儀式か何かだろうか?
それで?
そこに来た冒険者と私の恋人が...戦い...
私の恋人が...消滅した...
かな?
待て。
お前の恋人はとっくに死んでいたのではなかったか?
はい...そのはずです。
それはハッキリ覚えています。
それよりもっと前に、同じダンジョンで命を落としたんです。
同じダンジョン...どこだ?
グリダニアのタムタラの墓所です...
それは確か...ゲルモラ時代の墓所だな。
危険なモンスターもいたかもしれない...
お化け...ですか?
バカもの。
そもそも死という事象は、魂であるエーテルが、何らかの理由により肉体を離れてしまい、元に戻らなくなった状態を指すのだ。
肉体そのものが壊れた、とかな。
墓所に出没するモンスターは、そんな壊れた体をヴォイドから来た妖異等が勝手に操っているか、墓所の残留思念をヴォイドから持ってきた別の器に入れているか、もしくはヴォイドから来た妖異そのものか、そのどれかの可能性が高いのだ。
死者の肉体に、死者の魂そのものではなく、一部の強い衝動だけを呪術で無理やり結びつけた場合は復活ではなく、ゾンビー化という。
あっはい...
むっ?
タムタラの墓所にもゾンビーがいたのか?
いました...
ふむ...ゾンビーは呪術師を介さずに自然発生する物ではない。
ゾンビーを作った呪術師が存在するという事か...
白魔道士ならば蘇生スペルの心得があるだろう?
白魔道士の蘇生スペルを行使しても元の肉体に戻ってこない魂は、エーテル界へと移動し、もう二度と同じ肉体には戻らない。
そしてその魂はいつか別の命に生まれ変わる。
おそらくだが、お前は恋人の死が受け入れられず、恋人をゾンビーか何かにしたのだろう。
そしてより完全な蘇生を求めた...
しかし、冒険者によって返り討ちにあった...という所だろうか...
それで...
お前が作ったゾンビーは戦いに敗れ、お前も冒険者に殺されたのか?
アヴィールは...私の恋人は...完全に焼き尽くされて、そして...
うう...そして私は...落ちた...?
落ちた?どこから?どこへだ?
タムタラの円形の舞台から、周囲の深い谷底へ...かな...
深い谷底か。落ちたら死にそうな高さなのだな?
それで、その後目覚めた時の状態は?
それが...円形の舞台の中央で寝ていて...誰かに名前を何度も呼ばれた気がして...意識を取り戻しました。
おかしいじゃないか。
お前は周囲の谷底に落ちたんだろう?
どうして舞台の上で寝ているんだ?
よーく思い出すんだ。
その場に誰がいたのかしっかり思い出せ!!
うう...う...
ん?
おい...
まずい...
急に意識がなくなったぞ...
おい!戻ってこい!!
脈拍...正常。
瞳孔反応...正常。
おかしいじゃないか!!
なぜ意識が...いや...まるで魂が抜けたように...
ん?
うわあああ!!!なんですか急に!
変なことしないでください!!
バカもの!!
瞳孔反応を見ていたのだ!!
お前が急に意識を失ったようになったのでな。
えええ???
ふむ...自覚症状なしか。
まあいい続けよう。
気を失っていたお前を誰かが拾って助けてくれたんじゃあないのか?
ああそうか...
冒険者に助けられたのかもしれないな。
よかったな。
これに懲りてもう二度と馬鹿な真似はするなよ。
死者を完全な形で蘇らせるなんて...錬金術を持ってしても...いや、なんでもない。
そ、そーなのかなぁ...
でも...その後からエーテル...というか...魔力が...多分元の半分くらいになってて...記憶もかなり無くなってて...
まあ死にかけたんだからそれくらいの事はあるだろう。
きっとそのうち元に戻る。
ちなみに忘れたのはどんな記憶だ?
わかりません...
チッ...
では逆に覚えている記憶はどんな記憶だ?
えっと...子供の頃の楽しい記憶とかはよく覚えています。
あと恋人のアヴィールとデートした事とか!
えへへっ!
...両親が今どこでどうしてるとかは?
わかりません...
恋人が死んでから、お前が死にかけるまでの間の記憶は?
ありません...
セヴェリアンさんが私に顔をぐっと近づけ、目の中をを覗き込むように見つめる...
そして私の手を握って質問を続ける...
目が覚めてから今までお前は何をしていた?
えっと...グリダニアに宿泊しながらチョコボの牧場で働いていました。
死んだ恋人の事はどう思う?
彼が死んだのは残念だけど、私が冒険者として頑張って、彼の夢をいつか継ぎたいと思います!
彼の夢とは?
エオルゼアで一番有名な冒険者になる事...かな?
一番強い冒険者かも???
強い...?
彼は魔道士か呪術師だった?
いえ、彼は当時駆け出しの剣術士でした。
ふむ...知り合いにゾンビーを作るような呪術師はいるか?
そんなの全く知りません...多分...
そうなのか...だんだんわかってきたぞ...
セヴェリアンは一人で考えをまとめ始めた。
お前...名前は?
エッダです。
結論から言おう。
エッダ。
お前が失った物は記憶でもエーテルでもない。
「人格」そのものだ。
お前の中には恨みや悲しみや憎しみや妬みといった負の感情が完全に欠けている。
おっと、勘違いするなよ。
どんな人間でも、心に善悪、白黒あわせ持つものだ。そして皆、己が理性によってバランスをとって生きているんだが...
お前には全く負の感情が欠けている。
今のお前は、他人を巻き込む危険な呪術を行ってまで恋人を蘇らせようとした頭のおかしい女には全く見えないし、しかも恋人の夢を継いで前向きに生きるだと?
まるで二重人格じゃないか!
これは異常事態だ。
おそらくお前の失った記憶は、悲しい辛い記憶ばかりに違いない。
そして負の感情や悲しい記憶と共に、エーテルも半分失った...
そして無理に記憶を取り戻そうとすれば、意識が無くなってしまう...
それはお前の中の黒い人格が丸ごと無くなったという事だ。
負の感情や記憶というのは、強くしつこく、いつまでも残る物なのに...むしろそれだけが無くなるなんて...理由がわからないがな...
いや待てよ...
肉体が既に使えないと思って捨てられたのか...?
しかし、一時的に心臓が止まっていただけなら普通に蘇生出来たはずでは...?
なぜ蘇生せずに一部の人格だけを取り出したのか...???
ん?
たしか、ゾンビーがいたと言っていたな...!
最初から魂を取り出す事が目的なのか..!
そして...それを別の器に入れる実験か...?
では...その後名前を呼んで生き返らせたのは別の存在...?
お前、名前は?
エッダです。
エッダ。
これは私の推測に過ぎないが...
お前は用済みになって捨てられたのだ。
お前を谷底から拾い上げた存在は、最初からお前の黒い人格だけを狙っていた。
おそらく...忌まわしい呪術の実験に使う為にな。
今頃は何か別の器に入れられているかもしれぬ...
その後、お前の名前を知っている誰か別の存在の呼びかけによって、お前の肉体は、魂の残りカスだけを持って普通に蘇生した...という訳だ。
残りカス...
お前から黒い人格を盗んだのが誰なのかはさっぱりわからんが、まずまともな冒険者ではあるまい...
で、この後どうするのだ?
グリダニアの牧場で働くんだったか?
いえ、冒険者として頑張ろうかと...
無理でしょうか?
無謀だな。
お前、名前は?
エッダです。
エッダ。
人が生きていく上で黒い感情というのも時には必要になる事もあるのだ。
どうしようもなく過酷な状況下で何としても生き抜く為にはな。
そうでなくては冒険者としては生き残れないだろう。
何か...お前の欠けたエーテルや強い情念等を補うような存在でもあればいいのだが...
しかも...
これは俺の想像に過ぎないが...
お前の黒い人格を盗んだ犯人の目的がゾンビー製作であるならば...
お前の人格を持った強力なゾンビーが、いつかお前の前に敵として現れるやもしれぬのだ...
黒い感情は攻撃的でしつこい物だ。
今の白痴のお前ではまるで歯が立たないだろう。
白痴って!!
それじゃあ私おバカみたいじゃないですか!
せめて純白でお願いします!!
チッ...
純白のエッダと呼んで欲しいなら、お前が白痴でないという事を証明するんだな。
錬金術の課題を出しておく。
次に来る時に必ず提出するのだ。
それまでくれぐれも死ぬな。
課題を提出せずに勝手に死んだらお前の墓に「白痴のエッダここに眠る」と彫り込んでやるから覚悟しておけ。
やだぁ...それはやだなぁ...
安心しろ。
墓石代はおごってやる。
生き延びたかったら知識を身につけろ。
知は力だ!
そうすればいつかお前の失った人格を取り戻す事もできるやもしれぬ。
手がかりは...「死にまつわる呪術」だ。
ゾンビーとか...ですね...
断定はできない。
お前の魂が既に別の肉体に入れられていたら見分けがつかないかもしれないし、悪霊になってるかもしれない。
しかし...くれぐれも慌てない事だ。
今のお前では全く歯が立たないのだからな。
エーテル学の専門家に相談するのもいい。
私の専門は錬金術だからな。
本来エーテル学は専門外なのだ。
ああ、課題の中にエーテルポーションの作成も含まれているから自作して活用するがいい。
では、今日はもういいぞ。
あ、あの...私を助けてくれた人の手がかりとかは...?
それか。
そっちは簡単だ。
ひとつ、ダンジョン最深部にちょうど居合わせた。
ふたつ、お前の名前を知っていて呼び捨てした。
みっつ、命がけでお前を助けた。
強い想いはエーテルと共に現世に残りやすいらしい。
案外近くにいるのかもな...
えっ!!!
それって...まさか...!!
アヴィールの魂が...!!!
知らん!責任も持たん!!
それ以上はお前が自分で探すんだな。
はい!ありがとうございましたセヴェリアン先生!!
うむ。課題が出来たらまた来い。
思いがけず、自分自身の事故の謎を解く手がかりを見つけたエッダちゃんなのでした!