ep.9 修繕するエッダちゃん。
ベッドで目が覚める。
目が覚めた時に、水車の回る音と川のせせらぎと小鳥のさえずりが聞こえて来ないのはもう新鮮にすら感じる。
ウルダハの宿屋、砂時計亭だった。
いつも通り、顔を洗って髪をブラッシングして身支度を整える。
ふと見ると私のピルグリムロープは上下共にかなりくたびれているようだった。
タムタラで死にかけた時に焼け焦げた跡や破れた箇所がいくつもあり、それを何とか縫い繕って今日まで持たせている。
でも大丈夫だ。
私はママからちゃんとお裁縫も習っているもの。
欲しい物は自分で作る。
壊れた物は自分で直す。
それが生きる為に必要な事だと教えられた。
肘に空いた穴を塞ぐようにササッと縫いつける。
・
・
・
うん!見た目は完璧!
多少引っ張られる感じがするけどまぁ許容範囲だと思っておく。
ここは大都会ウルダハ。
チョコボの牧場とは訳が違うのだ!!
お世話になっているモモディさん、オトパ・ポットパさんに挨拶して、おすすめのクランペットとミルクたっぷりのザナラーンティーで朝食をいただく。
クランペットとは外はカリカリ、中はモチモチのパンケーキのようなものだった。
パン生地で作ったホットケーキと言えばわかりやすいだろうか。
ザナラーンティーと相性が良い。
しかし、これどうやって綺麗に丸く焼くのだろう?パン生地だから膨らむはず。
見ると、皿に載ってた二枚のクランペットは完全に同じ形をしている。
なるほど。
これは丸い型で焼いてるのかしら?
オーブン?いやフライパンかな?
メープルシロップが程よく染みていて朝から幸せな気分になる。
これなら自分でも作れるかもしれないので、メモしておこう!
大通りに出てみる。
エメラルドアベニューと言うらしい。
すごい。
石造りの都市ってすごく文明的。
これが、これこそが都市なのかと思う。
おっ!
すぐ近くに服飾店が見えるのでさっそく都会のファッションを見に行こう!
実用以外のオシャレな普段着って、都会の人はどんな服を選ぶのか興味津々だった。
マネキンに着せられた素敵な服が並んでいる...
なんか私が今まで見てきた服と色々違う...
肩の膨らみ。
ウエストの絞り。
大きく尖った襟。
ポケットのカッティング。
裾の広がり。
ママが作った服にはこんなのなかった。
・
・
・
これは...型紙が見たい...
そう思って展開図を頭の中で想像しながら縫い目を見ていると、後ろから声をかけられた。
あらー、随分その服が気になってるみたいね。
服を観察するのに夢中で振り返らずに答える。
ええ、素材の組み合わせも立体的な裁断も何から何まで私の想像を遥か超えているんですよ...
ちょっと理解が追いつかないレベルの素晴らしさなんです...
いつかこんなの自分で作れたらいいなぁ...
まぁ!ゆっくり見てちょうだい。上着を預かるわよ。
あ、はい。すいません。
言われるままローブを脱ぐ。
ねぇあなたは修復と修繕の違いを知ってる?
いえ...両方直す事ですよね...?
振り返ると、そこにはルガディンがいた。
驚いて呆然としていると、ルガディンは勝手に話し続けた。
美術品などの見た目を元通りにするのが修復。
日用品などの性能を元通りにするのが修繕ね。
このローブはあなたが命をかけて戦うのに必要な相棒なんでしょう?
あなたがこの子と一緒にいくつもの死線をかいくぐってきた事、よーくわかるわ。
そんな大切な相棒、これからもずっと一緒に戦っていけるように、きちんと修繕してあげなきゃかわいそうってもんよ。
そう言うと、今朝私が縫いつけた箇所をササッとほどいてしまう。
リアーヌちゃん、Aの5番とEの13番の端切れを持ってきてくれるかしら?
ハイっ!
っと返事をして、織物サンシルクの店長が大急ぎで奥の引き出しから端切れを出して持ってくる。
ねぇ物作りに一番大切なのは、愛情だと思うのよ。
それを着る人がどんな人で、どこでどういう風に着て何をしたいのか、それを一生懸命考えて、どうしたらその人が幸せになるかを想像するの。
私はその時間が一番幸せを感じるのよね。
修繕だってちょっと工夫して上手くやれば...
ホラッ!
前よりも上等に見えるくらいじゃないかしら?
そう言うと、ルガディンは私にローブを返してくれた。
肘にローブと同系色の薄手のレザーで当て布がしてある!!
ちゃんと左右両方だ!!
元々あった模様に合わせてカットしてあり、違和感など一切無く、むしろ高級感が増してさえいる!
あれっ??
でもそんな時間あったっけ?
袖を通してみてくれる?動きづらくないかしら?
あっはい...
わぁ!
当て布の裏側にもちゃんと裏地をあててサンドイッチしてある...!
ああっ!
破れそうになっていた袖口にも同じ薄手のレザーで補強がしてある!!!
いつの間に...!
神業だった。
目の前で、おしゃべりをしている数分でこれだけの修繕をこのルガディンはやってのけたのだ...
スペルの詠唱に支障はなさそうかしら?
あっ!はいっ!!
完璧です!!ありがとうございます!!!
私が白魔道士だという事も見抜いているようだった!
その場にいた全ての店員とお客さんから自然と拍手がおこる。
店長のリアーヌさんは目が潤んでいた...
天使だ...
いや、「大」天使がそこにはいた...
やだわ!私が作ったドレスを熱心に小一時間も見てる子がいるって聞いてちょっと様子を見に来ただけなのよ!
私はローズ。
裁縫師ギルドのレドレント・ローズよ。
私の作った服にそんなに興味があるなら私のギルドにいらっしゃい。
私が手取り足取り教えてさしあげてもよくってよ!
はいっ先生!!
都会にはすごい人がいるものだと感動しつつ、スキップで軽やかに進むローズの後を小走りで追うエッダちゃんなのでした。