ep.12 ゾンビとエッダちゃん。
おねえちゃん、このくさはたべられるにゃん?
それは...多分おいしくないやつにゃん。
おねえちゃん、おしっこ...
川の浅い所ですればいいにゃん。
グリダニアの北から市街を縦断して南の翡翠湖に向かって流れる紅茶川。
五年前の第七霊災からさらに遡る事六年。
街の入口の傍を流れる紅茶川の川原に幼いミコッテ達が身を寄せあって生きています。
マーシャー!ニーナについていってあげて。
はーい。
おねえちゃん、今日は矢がたくさん落ちてたの!あとで見ておいて!
まあすごーい! これは久しぶりにパンを買えるかもしれないにゃあ...
んみゃあ!んみゃあ!んみゃあ!
おねえちゃん!エバが泣いてる!
エバは元気がいいにゃあー!お腹すいたにゃん?
基本的に、ムーンキーパーには父親は存在しません。
もちろん生物学的な父親は存在するのですが、ムーンキーパーは元々男子の出生率がとても低く、男性として成人しても家庭を持たずに一生涯旅を続けるのが種族的な習性の為、子供は母親のみで育てるのが一般的でした。
男系で氏族を構成するサンシーカーとは対称的なのです。
しかし不幸にも母親を早くになくした場合、子供たちは幼くして自立を余儀なくされます。
エオルゼア各地の給仕や踊り子などをして働く自立した女性たちにムーンキーパーがとても多いのは、第七霊災のずっと前からエオルゼアの伝統なのでした。
そうだ!わたしもおっぱいでないかにゃあ...
クスクスッ
おねえちゃんのぺったんこの胸からなんにもでるわけないにゃん!
やってみないとわかんないにゃあ!
ほれっ!
ちゅっぱちゅっぱちゅっぱ...!!
あひゃひゃひゃ!こちょばい!!あひゃひゃ!むりこれ!!あっひゃっひゃっ!
ほーら赤ちゃん産まないとむりなのよ!
うーん...そうかもしれないけど、きっとエバはちゅっぱちゅっぱがしたいにゃん。
ほれっ!
ちゅっぱちゅっぱちゅっぱ...!
あひゃひゃひゃ!!
あっはっはっ!おねえちゃんてばさいこうね!!
月の明るい夜は、ムーンキーパーが一番活動的になる時間帯でした。
五人姉妹のミコッテ達はグリダニアの多くの冒険者たちに見守られながら元気に育っていったのでした。
アニア...交代して...
ちゅっぱちゅっぱするの...もう限界...
うっふっふっ...
んん...
はっ・・・!
夢...?
ふぁあああ...!楽しい夢見たにゃあ!!
マーシャ、アニア、ニーナ、エバ...
みんな元気かなぁ...
ぱたぱたっ...
シーツの上に液体がこぼれ落ちます。
あれっ...涙?
おかしいにゃあ...悲しい気分じゃないのに...
ぱたぱたっ...
あれあれっ...
マーシャ、アニア...ニーナ...エバ...
ヒルディブランドさまぁ...
えーんえーん...
・
・
・
よしっ!涙が出たらスッキリしたにゃん!!
今日もバッチリメイクして、ビジネススーツでカッコよく事件屋出動ですー!!
さてと。
そろそろウルダハ滞在を終わりにして、リムサ・ロミンサに向かう頃合だろう。
魔力の不足を補うエーテルポーションもたっぷり作ったし、着替えの服だって裁縫の練習がてらにいっぱい作った。
すっかり準備は万端だ。
そう思って旅支度を整えにマーケットに行く途中だった。
なあ、あんた最近ウルダハに来た冒険者だろう? 俺は毎日街を見てるから見慣れない冒険者がいたらすぐわかるんだ...
大通りにいつもいる情報屋らしい人から声をかけられた。
は、はい、なんでしょう?
あんた...事件屋って二人組を知ってるか?
事件屋の二人組...?
あの...もしかして...
ダラガブの落下を止めたっていうヒルデさんと助手の二人組の事ですか?!
ヒルデさん?
あっはっはっ!
あんたブラックブラッシュの酒場の爺さんから聞いたな?
えっと...はい、確か...コッファー&コフィンのアルレトさんからお二人の事を聞いたんですが、あなたもご存知なんですね!
ああそうだ...あのアルレト爺さんの話は本当なんだぜ。
第七霊災の前、キャンプ・ホライズンにあった爺さんのかぼちゃ畑から、ダラガブに向かって勇敢に飛び立って行った勇者の名は...
すごい!!お爺さんのお話は本当だったんだ!!
やっぱりヒルデさんのおかげでエオルゼアは救われたんですね!!
それで...今はどうなさってるんですか?
ヒルデさんは、無事にエオルゼアに帰還されたんでしょうか?
オッサンは...死んだよ。
ダラガブから落下した跡には遺体すら見つからなかったらしいがな...
まぁ...
今は助手のナシュちゃんがオッサンの跡を継いで一人で事件屋をやってるんだが、なかなかうまく行かないらしくてな...
今は怪しいゾンビーの事件を調べてるらしいんだが...
ゾンビーですか!!
...こんなに早く手がかりが見つかるなんて!ツイてるわ!!
おっ!興味があるなら、ナシュちゃんは今、ドライボーンの北の聖アダマ・ランダマ教会にいるはずさ。
俺は仕事でウルダハを離れられないから、良かったらあんたナシュちゃんを手助けしてやっちゃくれないか?
わかりました!行ってみます!!
ああ、気をつけてな。
・
・
・
やった!!やった!!
ツイてる時は即行動しないと!!
まずはセヴェリアン先生に報告しに行こう!!
先生!セヴェリアン先生!!
手がかりを見つけました!
む。
お前か。
もう手がかりを見つけたのか、やけに早いな...
今、おかしなゾンビー事件が発生してるそうなんです!
今からその調査に行ってきます!!
そうか...
あれから俺も考えてみたんだが...
そもそもお前はどうやって死んだ恋人を化け物に変化させたのだ?
あ...全然わかりません...覚えてないので...
お前自身にも死んだ恋人にも、呪術の知識も経験も無く、パーティの誰もそういう物と一切無縁だったのだろう?
やっぱりおかしいな...
はい...そうですね...
お前の恋人が亡くなった後、お前を騙して罠に嵌めた者が存在するのかもしれないぞ。
「亡くなった恋人を甦らせる方法を教えてやる」などと言って傷心のお前を騙し、死人を化け物に変化させる呪術を行わせた...
待てよ...その恋人が死んだ事さえも、元々罠かもしれないな。
え...アヴィールは...誰かに殺された...?
事故ではなく...??
そういう可能性もある...という事だ。
タムタラの墓所に大量のゾンビーを放って操っていた...
なぜだ?
そのゾンビー達を操ってお前の恋人を殺害した...
なぜだ?
お前を騙して恋人の亡骸を化け物にした...
なぜだ?
最後に...
お前から人格を...魂の一部を抜き取った...
何か...何か理由があるはずだ。
これらを行った犯人が全て同一人物であるならば...
見えてくる答えはなんだ...?
まだ何か...重要なピースが欠けている...
ああ...
お前、名前は?
いい加減覚えてください...
エッダです。
うむ...
エッダ、悪いことは言わない。
この一連の事件からは手を引いた方が身の為かもしれぬ...
これだけの事を1人でやってのける人物なぞ、既に常人の域をはるかに超えている。
人間の魂を弄ぶかの如き所業...この私にすら不可能なのだからな。
そのような人知を超えた存在に、今のお前が対抗できるのか?
うう..
自信はないです...
でも...先生に教わって作ったポーションもあるし、他の先生方から教わった道具や装備もあるし、私だって頭脳で勝負しますよ!!
そうか...全く...
やはりお前には...何かが欠けている。
しかし、それくらいでないと、こんな危険な冒険に出ようとは思わないか...
並の冒険者と違うのはそこか。
エッダ。
私は駆け出しの冒険者の名前なぞ覚える気はない。
どうせすぐに死ぬからな。
だがエッダ。
お前の名前は覚えておくぞ。
この案件は非常に興味深い。
いいか。
敵がここまで手の込んだ事をする理由は...
おそらく、お前の失われた魂や記憶そのものにある。
ここまでの凝った仕掛けをするだけの理由が...
何か...
絶対に何かあるのだ。
それこそが、真実を解き明かす最後のピースに違いないぞ。
必ずや生きて、この案件に関する新たな情報を私に伝えに来い。
わかったなエッダよ。
はい!約束します!!
自作の大量のエーテルポーションをチョコボかばんに詰め込んで、グリダニアからウルダハに来た時の道をそのまま戻っていく。
一度通った道だ。わけはない。
お昼には聖アダマ・ランダマ教会に到着したのだった。
ドライボーンの上部のチョコボ留を通り過ぎると、すぐに教会の墓所が見えてくる。
ふと見ると、入口からほど近い墓石の前でしゃがみこんでいるスーツ姿を見つけた...!
きっとあれだ!
あれが噂の事件屋に違いないわ...!!
チョコボのアンナから降りて、手網をそばの木にくくりつけ、そっと声をかける。
突然すみません...事件屋の方でしょうか?
ウルダハのワイモンドさんから聞いて来ました。
返事はない...
ミコッテの耳が垂れ下がり、俯いている...
もしかして...泣いているのかもしれない...
きっとそうだ...
このお墓はおそらく...亡くなった勇者ヒルデさんの...
すー...すー...
息づかいが聞こえる...
あのー・・・
あっ・・・そうだ
よかったらハンカチつかいますか?
ローズ先生に教わった刺繍の練習台となった自分のハンカチをそっと差し出す。
返事はない・・・
あのー・・・
顔をそっと覗いてみた。
すー...すー...
安らかな寝息をたてて、ミコッテは墓石の前でぐっすり眠りこけていたのでした。
あとがき
初めてお読みになった方、ありがとうございます。よろしかったらエピソード1から楽しんでください。
続きを待っていてくれた方、お待たせしました。エピソード12です。
海外の人気ノベルには複数の作家達によって書き続けられるシリーズというのがわりとあります。
たしかスターウォーズのノベライズなんかがそうなんですが、海外作品の場合、翻訳者が同一人物なら、そこがクッションになって読者に違和感が無いようにしてるんじゃないかと私は想像するのですが、FF14の場合、作家による個性は活かして残す感じですねぇ。
今回から事件屋と絡んで来るのですが、事件屋の話とエッダちゃんの話とFF14のメインの話と、3つの話をそれぞれ壊さずに、うまく活かしながら、エッダちゃんが生き残るオリジナルの話をまとめるのに苦労しました。
考えがうまくまとまりそうになった時に漆黒のメインが始まり、漆黒との整合性をとる必要も出てきて、また何度も考え直しました。
オリジナルを書くにあたって自分なりに世界設定を調査しながら書いていますが、私の創作も混ざっているので少しご説明致します。
ナシュ・マカラッカは黒衣森出身の五人姉妹で、妹の一人がプリンセスデーの三美姫の一人、マシャ・マカラッカなのは知られています。
マシャ以外の姉妹は名前も全くわかっていないので創作しました。作中の名前は私のオリジナルです。
ナシュとマシャの二人の名前からロシア系のネーミングではないかと推察しました。
ムーンキーパーの設定にはほんの少し私の想像が混じっているかも知れません。
父親がいないから女手一つで娘たちを育てたというのは、ムーンキーパーの木工師、チェミ・ジンジャルさんの家庭がまさにそれでしたね。
もしも母親すらいなかったら・・・子供たちだけで生きていくのはさぞや大変でしょう。
実際に、ファイナルファンタジー14の世界の中に男性のムーンキーパーはプレイヤーキャラクター以外にはほぼ存在しません。
エッダちゃんにヒルディブランドの過去を語ったというコッファー&コフィンのアルレトさんは、私のオリジナルストーリーのエピソード8にも登場した、現在の酒房コッファー&コフィンでいつも居眠りをしているおじいさんの事です。
新生以降はブラックブラッシュの酒房コッファー&コフィンで居眠りしているだけのおじいさんですが、旧FF14では重要な役割りを果たしました。
簡単に旧FF14の事件屋の一部を説明します。
ダラガブの落下を止める為、ウリエンジェの予言詩を解読して、かぼちゃ畑を探すヒルディブランド。
現在のホライズンのもう少し西に、第七霊災前はキャンプ・ホライズンという場所があり、そこでアルレトおじいさんが「旅亭」コッファー&コフィンを経営していました。
そこにアルレトおじいさんがかぼちゃ畑を持っていたのです。
ヒルディブランドはアルレトおじいさんが若い頃に使っていた鎧と盾を譲り受けました。
その後、アルレトおじいさんが農作業に使っていたガン・ハルバードを畑で暴発させてしまい、ダラガブ(の方)へと単身飛び立って行ったのでした。
ちなみにそのガン・ハルバードは、ガレマール帝国軍・第VII軍団の軍団長ネール・ヴァン・ダーナスのガンハルバード「ブラダマンテ」であり、アルレトさんがクルザスの行商人から買った物でした。
事件屋新生編は、この旧FF14のストーリーから完全に繋がっています。
事件屋新生編でヒルディブランドが最初に着ていた鎧は元々アルレトおじいさんの鎧だったのです。
このアルレトおじいさんの思い出は、旧FF14で彼がヒルディブランドを呼ぶ時に使っていた「ヒルデさん」という呼び方と共にエッダちゃんへと受け継がれるのでした。