ep.2 洗濯するエッダちゃん。
らんららんるーん♪
鼻歌を歌いながらひとりで歩く。
らんららんるーん♪
鼻歌はつらくて苦しい時に出るもんだって誰かが言ってた。楽しい時は集中してるから、逆に鼻歌なんか出ないんだって。
らんららんるーん♪
そーいえばそーかも。
らんららんるーん♪
こうやって私が鼻歌を歌ってる時、いつもそばに誰かがいたような気がするけど、もう思い出せない。
らんららんるーん♪
思い出せないから、別に涙とか出ないんだけど。
らんららんるーん♪
全身ありとあらゆる汚れにまみれた体で、グリダニアのカーラインカフェに向かうエッダちゃん。
子供の頃に外でおしっこを漏らして、泣きながら帰った事を思い出しました。
らんららんるーん♪
あの時、わたしの手を引いて一緒に帰ってくれたお兄ちゃんは誰だっけ?
らんららんるーん♪
あーこんな汚い私を見てミューヌさんに何か心配されたりしたら逆にやだなぁ...
あのー...
カフェに到着したエッダちゃんを見て、ミューヌは顔色ひとつ変えず、黙って親指をくいっと外へ向けました。
そっちへ行ってみると、エッダちゃんはミューヌに追い出されたのではないという事がわかりました。
カーラインカフェに併設された旅館とまり木の大きなお風呂には、入り口が2つありました。
ひとつは旅館の中からの入り口。それとは別にもうひとつ、ダンジョンから帰った冒険者が汚れた装備や服を洗う事のできる洗い場が併設された外からの入り口があるのでした。そこで泥や血やゲロや、その他訳の分からないヌルヌルとかを洗い流してからお風呂場に入るのです。そしてその洗い場は女性専用となっており、男性は外の川でバシャバシャと洗ってくる事になっていました。
洗い場に入ると、そこはまだ戦場の続きのようでした。悲鳴と呪いの言葉を交互に叫ぶララフェル。泣きながらパンツを洗うエレゼン。洗い終わった鎧に油を塗るルガディン。洗濯だけしに来た女性冒険者もいましたが、そこには泥と血の匂いが充満していました。
なるべく他の人は見ないようにしながら、エッダちゃんも隅っこのシャワーを借りて、汚れた服や髪を水でバシャバシャ洗っていると、鎧の手入れを終えたルガディンがちびた石鹸を放り投げてよこしてくれました。
あたしは終わったらからやるよ。知ってるか?今ヴァレンティオンとかいうカップルイベントをやってるらしいぜ。ったくムカつくよなあ!
ぺこりと小さくお辞儀をして、ありがたくその石鹸を使わせてもらう事にしました。
石鹸で髪や体を洗えるなんていつぶりだろ...
川の水を汲み上げて流すだけの冷たいシャワーでしたが、それでも生き返るような気がしました。
らんららんるーん♪
シャワーの川上から何だか変な色の汁が流れてきたけど、どこから流れてきたかなど見ずに、黙って自分のシャワーで流す事にしました。
らんららんるーん♪
泣きながらパンツを洗うエレゼンの横で自分もパンツを洗います。
らんららんるーん♪
明日は白魔道士の師匠の所に行ってみよう。
レベル30の時以来行ってないけど平気かな?
洗濯が全部終わった後、ちゃんとお風呂で体も隅々まで洗って温まり、濡れ髪のまま、洗ったばかりのピルグリムローブだけ着てなんとかチェックインを済ませて指定された部屋に入ると、テーブルの上にタオルとお菓子が置いてありました。
タオルからはミューヌと同じ香木の良い香りがしました。
ひっ、ひっく...うわあああああああん! うわああああああああぁん...
人の優しさに触れたのは本当に久しぶりだったのでタオルに顔を埋めて思い切り泣きました。
はぁ
すっきりした...
ミューヌの気配りに心の底から感謝をしつつ、洗濯物を部屋干しして、久しぶりにベッドで寝るエッダちゃんなのでした。
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