ep.8 ラッシーとエッダちゃん。
私が生まれ育ったクルザスの村は、田舎過ぎて商店などは存在しなかった。毎月行商のチョコボキャリッジが、薬や調味料など色んな生活用品を売りに来てくれたものだ。
それを私たちはいつも楽しみにしており、動物の毛皮などと物々交換してもらうのだった。
私はアヴィールと一緒にセージやコリアンダーなどクルザスの野草を集めて持っていき、キャンディーなどの甘いお菓子と交換してもらったものだ。
ブラックブラッシュ停留所というのは、元々そんな行商のチョコボキャリッジがたくさん集まる拠点なのだが、現在は周辺の鉱山から採掘される鉱石をウルダハに送るトロッコ列車の駅でもあった。
たくさんの行商で賑わって市場みたいになっているのを想像していたのだけど、その期待は裏切られてしまった。
何か交換してもらえる物はあったかしらと考えつつブラックブラッシュに行くと、チョコボキャリッジなどなかったので、駅のプラットフォームに立つ女性に話しかけてみた。
こんにちはー。
あの...ブラックブラッシュ停留所ってここで間違いないですよね?
エトフレド「そうよ!あら、あなたは冒険者かしら?ウルダハに行くならアラグ星道を南、ホライズンに行くならアラグ陽道を西。ひと休みするならすぐそこに酒場があるわよ。」
ここって駅なんですか? もしかして人を乗せる列車も走ってるんですか?
エトフレド「いえ、残念ながらね。主にナナワ銀山で採掘された銀をトロッコで東アルデナード商会に送ってるのよ。」
そーなんですか!ありがとうございます!
列車に一度乗ってみたかった...
日も落ちてきたし、ウルダハはもう目の前なので、近くの酒場に行ってみる。
早めに夕食にしてもいいかもしれない。
ふと見ると、酒場の前で見知らぬ剣士が手招きしている。
用心棒「おーい!あんた冒険者なんだろ?俺はここの用心棒なんだが、よかったらキキルンを追い払うのを手伝ってくれないか?」
お酒を盗みに来るんですか?
用心棒「いや、金は持ってるらしいんだが、ウルダハは獣人排斥令が出てるんだよ。それにあいつら臭いから他の客に迷惑だしな。」
飲んべえググルン 「ちゃりちゃりあるっちゃー!」
「ガブガブっちゃー!!」
通りすがった他の冒険者達も手伝って、飲んべえググルンを追い払うのは難なく成功した。
そんなに美味しいのかな?
表にアンナを留めて店内へ入ってみる。
こんにちはー。
狭い店内だが銅刃団や鉱山で働く男達で賑わっている。
マスター「やあ、酒房コッファーアンドコフィンへようこそ。キキルンを追い払うのを手伝ってくれたんだろ?ゆっくりして行きなよ。」
はい、ありがとうございます! じゃあ何か飲み物を...
わあ、色々あるんですね...!
ミントラッシー...?
ラッシーってなんですか?お酒?
マスター「いや、ラッシーは発酵させたミルクで作るドリンクさ。うちのはミントの葉をすり潰して混ぜてあるから爽やかだぜ。」
へー飲んだ事ないです。ではそれを!
どこか座ろうと思ったら必ず相席になる。
隅っこのテーブルで居眠りしてるお爺さんと相席する事にした。
こんにちは。こちら相席失礼しまーす。
返事はなかったが、まあいいや...
店員の女性がミントラッシーを運んで来てくれた。
白いドリンクの上にミントの小さな葉っぱが一枚乗せてある。
まずはひと口...
んっ?
これは甘くない...でも飲みやすい。
なんていうか...飲むヨーグルトだろうか。
疲れた体を爽やかに癒してくれるようだ...
マスター「どうだい?ラッシーは砂糖やはちみつで甘くするのが一般的なんだが、うちは暑い中旅してきた客が気持ちよく飲めるようにミントを入れてある。それに隠し味にちょっと塩を入れてるんだ。」
それだ!隠し味の塩が、逆に素材の甘味を引き出してくれる...
爽やかで美味しい...!
アルレト 「わしは見たんじゃ...!落下して来るダラガブに向かって勇敢に飛び立って行く勇者をおぉぉぉ!」
マスター 「また始まった。親父の勇者の伝説。悪ぃな。その爺さんはうちの親父でな、霊災の時に勇者に会って覚えてるって言うんだ。」
えっ?あの光の戦士?誰も覚えてないって話に聞いた事ありますけど...?
マスター「そう、その光の戦士に会ったんだと。どうやらうちのカボチャ畑からダラガブに向かって飛び立って行ったらしい。爺さんの寝言さ。」
アルレト「寝言なもんか...!わしはあの光の紳士ヒルデさんを決して忘れんぞ!!あの方こそ霊災からエオルゼアを救った勇者なのだ!!!」
マスター「ほらな。紳士じゃなくて戦士だろう?もう寝てていいぜ。」
へー...お爺さんにも何か素敵な出会いがあったんでしょうね!
マスター「はは!そんな事言ってくれるのはお嬢さんだけさ!ま、今はそのカボチャ畑も海の底でね...」
へえ!ここじゃなかったんですね?
マスター「ああ、霊災前には今のホライズンのちょっと向こうに旅亭コッファーアンドコフィンてのがあってな、そこに立派なカボチャ畑があったもんだ。バハムートが暴れたおかげで津波で流されちまったがな。お嬢さんどっちから来たんだい?西?東?」
えっと東です。グリダニアから来ました。
マスター「じゃあアンホーリーエアーの大岩を見ただろう?池の真ん中にある大岩。あれもバハムートの時に空から降ってきたんだぜ。あんときにあちこち地形まで変わっちまったからな。こうして生きてるだけで儲けもんよ。」
ここも変わった場所ですね。こんな大きな岩の下なんて。
マスター「そうさ!この岩が落っこちたら、この店が丸ごと俺達のコフィンになるって寸法さ!まあ、それまでしっかり飲んでここをコッファーにしてくれよ。ミントラッシーのお代わりはどうだい?」
あっじゃあもう少し楽しいお話を聞きたいのでもう一杯いただきます!
マスター「そう来なくちゃな。」
そう言ってマスターは既に作ってあったらしいミントラッシーのお代わりを寄越してくれた。
んぐっ...
あれっ!さっきと違う...舌と喉に感じるこの刺激は...黒胡椒?
これは飲みやすくてグイグイいける!
マスター「おっ!センスあるねーお嬢さん!」
あはっ!マスターこれずるいです!!二杯目からは食も進みますね!
思わぬ所で第七零災の貴重なお話を聞けた...
カボチャ畑の光の紳士ってなんだろう...?
気になるなぁ...
やっぱり旅に出てよかった!知らない人と出会って色んなお話を聞けるのは素敵な事だ...
コッファーアンドコフィンで楽しいお話を聞いている内に、ウルダハに日が暮れていくのでした。
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